ただひたすら逃げていた。 流れる風景、響く足音、揺れる視界。 めくるめくように急きたてられながら世界が変わっていく感覚を感じながら、ただ左手でつかむ体温だけは離さないようにと必死だった。 どうして? といわれればきっと自分でもわからない。 逃げる必要なんてないはずだし、逃げる意味すらないような気がする。 それでも、何故か逃げなければいけないと思った。 左手につながる、体温と一緒に。 「っ、」 後ろで息をのむ気配がするけど、それを気遣うことはできなかった。 流れていく視界は、暗闇の中まだまだ自分の見知ったものばかりで、この町すら出ていないのだということがわかる。 早く、早くしないと。 何から逃げているのかすらわからない。 今ボンゴレを狙う敵がいるわけでもないのに、何故か逃げなくちゃいけないと思った。 時折感じる追いかけてくる気配は、きっとボンゴレの人だろう。 それに立ち止まることすらなく夜道を離れるように離れるようにと走っていった。 「!」 ちりっと首筋に何かが走って、反射的に立ち止まる。 それから、くるりと後ろを向いて、躓いて転びそうになっている彼女を抱きとめた。 「っは・・・は・・・っ・・・つ、なさ・・・ん」 「大丈夫・・・?ハル」 肩で辛そうに息を吐くハルの背をそっと摩った。 修行のおかげか、自分は息を切らしていないけれど、ハルはもう息も絶え絶えといわんばかりだった。 僅かに白ばんできた光が、ハルの汗に濡れた首筋を照らした。 ぎゅっと俺の服を握って時折ひゅひゅと不安定に息を吸い込みながら、体を揺らす。 「ごめん・・・もうちょっと走ろう」 繋いだままのハルの手を若干強く握ると、はっ、とハルが勢いよく息を吐いて吸って、それから顔を上げた。 「・・・はいっ」 しっかりと頷くハルの手を引っ張って、また二人で白くなり始めた町に走り出した。 どうして、ハルと逃げてるのか。 それさえも分からない。 ただ頭を占めるのは逃げなくちゃいけない、そんな気持ちばっかりで。 数日前に貰ったお小遣いと残金、あわせて1万600円。 携帯電話も身分証明書も全部置き去りにして、たった二人で走っていた。 ハルは大切な女の子だと思う。 それが恋かといわれれば首をかしげてしまう話で。 だから尚更、どうして自分はハルと一緒に逃げているのだろうと思う。 それでも引き返すことも戻ることもしたくなくて、手を握ったままずっと走り続けた。 たった二人で。 |