頭から離れないのは、あの震えていた小さな手。 どうしてそうしようと思ったのかわからない。 だけど、気づいたら近くに財布を掴んで、窓に手をかけていた。 真っ暗な外。 寝静まり帰るこんな時間に外に出るなんて、リング戦以来だろうか。 昔は結構暗闇が怖くって、寝るときにオレンジ色に光る豆電球をつけていたような気がする。 本当に、幼いころの話だけれど。 今目の前に広がる暗闇に、全然恐れを感じなかった。 「リボーン」 そっと、小さな声で家庭教師の名を呼んだ。 家庭教師はハンモックで安眠を貪っていて、反応はない。 リボーンが何を思ってボンゴレ[世のダニエラって人のことを話したのかはわからない。 それがどんな意味を持つのか、ハルが狙われるってことくらいしかわからない。 ハルは狙われることに恐怖はない・・・わけではないだろうけど、あんな震えかたをしたことはなかった。 未来に行った時だって、身体全体で恐怖を表したことはあっても、あんな耐えるように震えたことなんてなかった。 笑顔で虚勢をはって、こらえきれない恐怖が手を震わせるなんて。 ハルが何を知っているのかなんてわからない。 ダニエラに関することでハルが何かを知っていて、それであんなに怯えてたのかもしれない。 それを俺は知らないけど、わからないけれど。 だけど、このままじゃきっとダメだってことだけはわかる。 ハルが何か苦しみを抱えているなら助けてあげたい。 辛いときにいつも支えてくれて笑ってくれた、大切な大切な仲間だから。 八当たりした時も、怒鳴った時も、拒絶してしまった時も、ずっと笑って俺を受け入れてくれた。 少しだけ、なるべく音をたてないようにゆっくりと窓を開く。 夜独特のひんやりとした風が入り込んできて、少しだけ目を細めた。 ハルのところに行って、どうするのかも自分でもわからない。 だけど、きっとここには帰ってこない。 自分の中に流れるブラッド・オブ・ボンゴレがそう告げるような気がした。 夕方こっそりと持ち込んでおいたスニーカーをはいて、窓枠に足をかけた。 ポケットに捩じ込んだのは小遣いをもらって僅かに膨れた財布だけ。 携帯は机の上で充電中のランプを光らせたまま。 「リボーン」 ハンモックの上で鼻ちょうちんを膨らませているリボーンを振り返る。 どうしてリボーンがダニエラについて話したのかは分からない。 でもきっとこうなるだろうと思って話したんじゃないと思う。 だから。 「・・・ごめん」 昔とは比べ物にならないほどについた筋肉で、二階から小さな音だけで飛び降りた。 見上げた窓は昔よりも近い。 一度だけ窓を見つめてから、今度は振り返らずに走り出した。 持ち主の居なくなった部屋で、小さな影がゆっくりと窓際にたつ。 見下ろす先には、振り返ることなく走っていく姿が見える。 「・・・ダメツナが」 そう、小さな影が呟いた。 |