足が痛い。 運動部に所属しているとはいえ、こんなに走ったことはなくて。 足は鉛のように重く、全体が腫れたように痛む。 きっと一度足を止めてしまえば、もう走りだせないかもしれない。 引っ張ってくれる手に身をゆだねて、ただ足を動かしているだけだというのに、もう呼吸も危うい。 けれど、綱吉に立ち止まってくれとはいえなくて。 ダニエラの子孫であることを告げられたその夜、突然窓からやってきた綱吉に手を引かれるままに飛び出した。 動きやすい服に着替えて、こっそりとスニーカーを取りに行って、それから財布をポケットに入れて。 窓から手を差し出す綱吉に身を任せ、暗闇の町へと飛び出した。 ピンク色がお気に入りの携帯を、電源を落としてこっそりとポケットに隠したまま。 「ひゃ、」 がくん、と足が崩れた。 倒れる!とぎゅっと目を閉じれば、すぐに昔よりも固く筋張った腕に抱きとめられた。 顔を上げれば、思ったよりも至近距離に綱吉の顔があって、思わず身体が強張る。 は、と短く漏れた息だけを吐いて、じっと綱吉を見つめた。 「ごめん・・・大丈夫?」 ごめん、は早く走りすぎて、だろうか。 心配げに眉を寄せて問う綱吉に、ハルは思わずいいえと首を振った。 立ち止まり荒く息を吐いていると、熱した頬を冷たい風が心地よく撫でた。 じわじわと足に痛みがこみ上げて、まるで鉛のように重い。 目の前の綱吉は汗すらかいておらず、息も乱してない。 修行の成果なのだろうか。 抱きとめてくれる腕は、中学生のころ抱きついていた腕よりも強く固く、しっかりとしていた。 もう痕になり瘡蓋すらない傷痕もいくつかある。 「っ、こっち!」 「え、きゃっ」 突然先ほどの状態から抱えあげられて、小さな悲鳴を漏らした。 綱吉はハルを軽々と抱きかかえたかと思うと、物影に隠れて、隠すようにハルを抱きしめる。 「静かに・・・」 そう呟く綱吉の声が耳元で聞こえて、叫びだしそうな口をぱっと抑える。 するとすぐに聞こえてきたのは足音で、イタリア語が時々混じりながらも、ボンゴレという単語を残して去っていく。 じっと、こらえる中でハルは綱吉を見上げていた。 どうして、綱吉は自分と逃げてくれるんだろうか。 だって、綱吉に逃げる必要なんてない。 マフィアのボスになることを拒否していた中学生のときならまだしも、高校性になったばかりのころから綱吉は、みんなを護るためにマフィアのボスになることを選んだ。 今回逃げているのは、ハルの都合でしかない。 綱吉がたとえ彼等の目の前に立っても殺されたりなんてすることもないし、勿論ハルだってそうだ。 だから、これは本当にハルの都合でしかないのに。 「ん?どうかした?」 いなくなったことを確認した綱吉が、ハルの視線に気づいて首をかしげる。 それにハルはいいえと首を振ることしかできなかった。 「と、もういないみたいだし・・・それじゃあ、行こうか」 綱吉が手を伸ばす。 どうして、どうして一緒に逃げてくれるんだろう。 それが不思議で不思議でたまらなかった。 でも、綱吉が手を差し伸べてくれたなら。 もうその答えは決まっていた。 「―――はい!」 |