ぴたりと、綱吉が足を止めた。
それにハルは止まらない勢いで少しだけ背中にぶつかって、立ち止まっている綱吉を見上げた。

「・・・隼人だ」
「え」

足を止めた先、獄寺隼人がいると、そう綱吉に超直感が告げる。
「・・・ひょっとして」
「大丈夫だよ」
けれど、大丈夫だとそう確信があった。
自信たっぷりに言う綱吉に、ハルも頷いて歩き出した綱吉に続いた。




「じゅう、だいめ・・・」
姿が見えた瞬間、普段には似合わないほどに弱弱しく呟いた隼人に、綱吉は口を噤んだ。
その表情は泣きそうに歪んでいて、唇に加えられたタバコは弱弱しくうつむいていた。

「隼人・・・」
息を一回漏らして、それからきっと続くであろう言葉を待った。
ハルに関してか、自分にたいしてか、きっと積み上げられるだろう彼の言葉を待っていた。

けれど、その言葉は一言も吐かれることなく。

「十代目がなぜアホ女と一緒に逃げられるのか・・・わかる、のはわかりますけど・・・わかりませんけど」
どこか支離滅裂な言葉を漏らす。
言った本人も整理しながら呟く言葉が上手く整わず、首をかしげながらその言葉を紡いでいた。


「その、俺は・・・信じてます!」

じっとまっすぐ瞳を見詰めたまま。
泣きそうだった顔から真剣に見つめる顔に変わって。
確かにそう告げる隼人に、綱吉は息を呑んだ。

「俺は、十代目を信じています・・・十代目の、選ばれた道を信じます」

例えそれが一見、自分たちを裏切って逃げ出したように見えても。
そう、信じている。

「何て言っても、俺は十代目の右腕ですから!」
そう自信満々に胸を張る隼人に、綱吉は眼の端に浮かびそうになった涙を堪えた。



「あ、そうだ!アホ女!」
手を出せ!と隼人に促されるまま手を出すと、隼人がポケットに手を突っ込んで、つかんだものをそのまま手のひらの上に乗せる。
クシャクシャになったお札に、目を見開いた。
「これ、」
「お前にじゃねぇ!十代目にだ!くれぐれも十代目の足を引っ張んじゃねぇぞ!」
きょとんと隼人を見上げるハルに注意するように言って、それから綱吉の方を向いた。

「やつらは、俺が足止めをしておきます・・・だから、行ってください」
「・・・隼人」
「俺は、十代目の右腕ですから!」
ね?と笑顔で促す隼人の促しのままに頷いて、くしゃくしゃのお金をポケットに入れたハルの手を掴んで走り出した。



「さて」

燻っていたタバコを少しすって、その赤色が戻ったことを確認する。
幾重にも重なるような足音に立ち向かった。


「俺もボンゴレだが・・・悪いな。俺が忠誠を誓ったのは、沢田綱吉・・・」

あのお方。

「ただ一人だ!!」





手助けはこれだけでいい



( だってあなたは誰よりも俺が敬愛した、大切なお方 )