「お。お待ちしておりましたー、なのな」
座ったままにっと笑う武の笑顔に、綱吉が少しだけ肩の力を抜いた。
超直感があるからこそ、武がいるのが分かってもなお進んできた。
「武・・・」
そう呼べば、またにっこりと武が笑う。

「いやー、まさかツナとハルが駆け落ちするとは思わなかったのな!」
「へ・・・って、はぁあっ!?」
かぁっと一気に競り上がった熱に、綱吉はあたふたとハルの繋いでいない方の手を揺らした。
けれど行ってしまえば、年頃の男女が二人バレぬように抜けだし手を取り合って逃げだしている時点で、それは駆け落ちと呼ぶにふさわしいのかもしれない。
いや!でもそれは違う!何かが違う!!
浮かんだその考えに、顔の熱を冷ますように綱吉はブンブンと首を振った。

「あれ?違うのな?」
「な、なんか違うって!!」
一緒に逃げてることは否定しないけど!
と顔を真赤にしたままそう叫ぶ綱吉の手は、けれどハルと離されることはなかった。
その様子に、武は尚も笑みを深くした。



「む、極限もう来ていたのか!」

武と話をしていると、影から了平が現れた。
「了平さん!」
「すまんな。少し物を取りに行っていたら遅くなった」
「もの、ですか?」
後ろで話を聞いていたハルが、了平の言葉にきょとんと首を傾げる。
「ああ・・・」
ごそり、と了平がポケットを探り、それを掴んだまま綱吉に手を突き出した。

「沢田、手を広げろ」
「え、あ、はい」
了平に促されるままに手を広げると、ぽとん、と落ちてきたのは小さなキーホルダーだった。
ボクシングのグローブが二つついた、少し汚れた小さなキーホルダー。

「これ・・・」
「昔京子が買ってきた俺の勝利のお守りだ!」
これを持っていると絶対に負けん!
そう自信満々に胸を張る了平に続くように、武もその手のひらに、野球のボールを落とした。
「武・・・」
「ありきたりだけどさ・・・いつか、返してくれ、なのな?」

二人がいつか、納得できる場所にたどり着いたときに。
そうしていつか、それは誰にもわからないけれど、帰ってきたときに。
忘れずに、必ず。

「・・・うん」



「よし、じゃあ俺隼人に加勢してくるのな!」
「うむ、極限行くぞ!」
「や、山本さん、了平さん・・・っ!」
まだ、遠くには煙があがっている。
心配げに二人を見るハルに、同時ににっと笑顔で返した。

「命を助けてもらった恩を、仇で返すわけにはいかないのな」
「沢田、ハル、忘れるな。俺は極限お前らの味方だ!」

だから、

「「任せろ!」」

走っていく二人を見送って、綱吉はポケットにボールとキーホルダーを突っ込んで、ずっとつないだままの手を強く握る。


「うん・・・任せた、よ」

そう二人の背中に呟いて、また走りだした。





限界まで走り続けよう



( 僕らのゴールにたどりつけるまで、二人手を離さずに、ずっとずっと )