二人走りながら、前へと進んでいく。
時折、追いかけてくるその気配に綱吉が敏感に反応して、隠れて。

来るだろうな、とは思っていたけれど、やっぱりいた彼等に、綱吉は頬を緩めた。
「―――骸」
「くふふ、やっぱりわかってしまいますか」
少女の体でアンバランスに笑う骸は、大きな帽子を被り、常とは違う私服を着て小さな少年を抱き上げていた。
クロームの姿だから似合うといえば似合うのだけれど。

瞳を閉じて、ふっと開けた瞬間、少女の隣に本来の骸が現れた。
ぱちりと目を開けたクロームは、普段らしいくりくりとした瞳に戻っていた。

「ランボ、寝ちゃったんだ」
「くふふ、もう夜も近いですからね」

夜から始まった逃亡劇は、すでに朝日を浴び昼の光を浴び、結局学校にも行かずに外はもう夕日に照らされていた。
クロームの腕に抱かれた標準よりも大分小さい9歳の子どもは、小学校から帰ってきたそのままだったのだろうか、頬に泥をつけすやすやと眠っていた。
「準備を、手伝ってくれたから」
「準備、ですか?」
ふふっと微笑んでそう言うクロームに、ハルがきょとんと首をかしげた。
「一日中走っていれば綱吉君は兎も角、君はずいぶんと疲れているだろうということで」
「私、寝れるように準備しておいたの」
幻覚も用意しておいたのよ。

そう笑うクロームに、綱吉がありがとうと微笑んだ。

「あ、でも」
「ん?」
「布団一つですけど、流石にここではしないでくださいね」
クロームの言葉に続くように言った骸の言葉に、綱吉はきょとんと首をかしげて。
「ちょ、は、するわけないだろーーー!!!!」
と見事に絶叫した。

「はひ・・・?するって、何がですか?」
「ハルは気にしないで」
きょとん、と首を傾げたハルには、クロームが即座に微笑んで答えた。




一つの布団で。
少しだけ離れた距離で綱吉はハルの手をつないだまま、ぐっすりと眠ってしまっていた。

「おや、ずいぶんとぐっすりですね」
「・・・骸さん」
現れた骸にほにゃりと相好を崩すハルの様子に、骸は少しだけ苦笑した。
「ずっと神経を張り巡らせていたから、きっと疲れたのでしょうね」
こんなに近くにいても起きないくらいに、とこっそりと付け足した。

「どうして・・・ハルと、逃げてくれるんでしょうか」
「・・・それは、」
「仲間だから、で逃げてくれるなんて・・・ズルイです」

じわりと、目に浮かんだ涙をぐっと堪えた。
ダニエラの子孫であるということを聞いた時も、綱吉が逃げようと言ってくれた時も、どんなに足が痛くても、泣かなかった。
泣いたら、負けだと思ったから。
でも。


「ズルイです」


そんなことを言われたら、嫌いになれないのに、好きでもいられない。




暗闇の中、一つの影だけが幻術の中から飛び出した。





導のない心



( どっちに行ってもいいか分からなくて、今すぐパンクしてしまいそう! )