骸はまるで絵になるほどに綺麗な動作で、クロームが入れてくれた紅茶を飲んだ。
目の前でクロームは寝ボケているランボの頬をつつきながら、紅茶を飲みこむ。

途端、幻術の中とはいえ盛大に音を立てて飛び込んできた綱吉に、骸は笑みを浮かべた。


「おはようございます、綱吉君」
「ハルはどこに行ったんだよっ!」

そのまま駆けてきたかと思うと、がしっと胸倉を掴んでくる綱吉に、骸は穏やかにおやおやと苦笑した。
「朝の挨拶はしないとだめですよ?綱吉君」
「一番の非常識人が常識を語るなっ・・・!!っていうか、いいから、ハルはどこだよ!」
俯いてフルフルと震えながらそう叫んで、それよりも!と綱吉が顔をあげて叫んだ。
そんな綱吉に、また骸はおやおやと穏やかに笑った。

「そういえば、昨夜幻術から誰か一人出ていきましたね」
「なっ!!」
「うん。ボスがぐっすりと眠ってる間に、出ていったわ」
そう続けるクロームの言葉に、綱吉はちくしょう!と頭をかいた。
肝心な時には働いてくれない超直感に若干嫌気がさす。


「何で止めなかったんだよっ!」
「一応朝になったら解けるようにしかけてますが、幻術をかけておきましたよ?周りから見えないように」
「そういう問題じゃなくてっ!何で、」
「そういう問題でなければ、何が問題なんですか?」
遮るようにそう言われて、綱吉は息を呑んだ。

「・・・それは、だって・・・離れたら、ハルは帰ってこないから・・・」
「綱吉君。最早彼女はただの一般人ではありません。ボンゴレがダニエラの血を継ぐものの保護に動かないはずがありません。切り捨てるにはあまりにも大きなカードです」

ボンゴレの血を継ぐ。
それがどんな意味を持つのか。
血を重んじるボンゴレで、その意味は大きい。
だからこそ、ボンゴレが彼女を切り捨てることはない。

「彼女には確かに戦う能力などありませんし、体力も超直感すらもない。なら、保護されるのも時間の問題でしょう」
精々逃げれたとしても1日程度のものだろう。
その前に彼女の体力がもたないだろうけど。
「けどっ!!」

「何故、君は三浦ハルと逃げたんですか?」

「え」
骸の問いに、言葉が詰まる。
「・・・だって、それは・・・」
「大切な仲間だから、ですか?」
「じゃあボスは骸様が逃げたそうだったら、一緒に逃げてくれるの?」
「は・・・?」
膝の上にランボを抱きしめたままそう問いかけるクロームに、綱吉はきょとんと返した。

「そ、そんなのできるわけないだろ・・・!逃げてまた復讐者に捕まったらどうするんだよっ!それに、ボンゴレにだって、」
「でも、ハルとは逃げれるんでしょう?」
クロームの追うような言葉に、綱吉はぎゅっと拳を握った。
その手のひらにつないでいた体温はない。
「でも、ハルと骸とじゃ事情がっ!」

「でも君は、三浦ハルとならボンゴレを捨てて逃げられるのでしょう?」
「・・・っ!」
骸の言葉に、ひゅっと息を呑みこんだ。
「・・・それ、は・・・」

「ボス、考えて」
じっと、クロームの丸い瞳が、綱吉を見上げた。





まさか分からないなんて言わせない



( 貴方のその奥にある気持ちは、本当に本当に仲間への親愛だというの? )