ぴりっと、首筋を走り抜けたソレに思わず足を止めた。 ゆっくり、ゆっくりと進んで行けば先には一つの影があって。 漆黒の髪に漆黒の瞳、まさに黒こそがこの人の色だと言わせるほどの、その姿。 「待ってたよ、綱吉」 「恭弥さん・・・」 トンファーを両手に提げたまま、そこに立つ彼の姿に、綱吉は思わず息を呑んだ。 ちらりと、その黒い瞳が綱吉の隣の空間を見る。 「・・・へぇ、逃げられたんだ」 「っ!」 恭弥の容赦ない言葉に綱吉の肩がはねる。 手の先にハルはいない。 ゆっくりとトンファーを持ち上げる恭弥に、綱吉は反射的に手袋をはめた。 「あの子がいないなら好都合だ。さっさと君さえのして連れて帰れば、この騒動も終わるわけだ」 ぎらりと黒い瞳が獲物を狙う獣のように光る。 その瞳に飲み込まれそうになって、綱吉は息を呑んだ。 その瞬間、 「くっ!!!」 飛び込んできた恭弥の繰り出すトンファーに、グローブ化させた手袋のついた腕をクロスさせることで受け止める。 が、と音がして腕がじんと痺れた。 「ねぇ、どうしてあの子を追いかけるの?」 もう一本のトンファーが腹に向かうのを、足を使って止める。 その問いに、一瞬だけ体が硬直した。 「ぅあっ!!」 その一瞬の気の緩みで押されて、炎を軽く使ってバランスを取りながら立つ。 「おれは、」 ぐるりぐるりとその問いが頭を巡る。 何でハルを追いかけるのか。 「おれは・・・」 「君はどうしたいの?」 のして連れて帰れば、なんて言ったくせに、恭弥は俯いた綱吉に攻撃を仕掛けることもなく、ただそう問うた。 「おれ、は」 頭の中に、弾けるようにハルの顔が浮かんで、また一つと浮かんで。 飽和状態のような頭の中に、恭弥の問いが突き刺さる。 俺は、どうしたいのか。 ハルをどうして追いかけるのかなんて答えは出なかった。 俺はハルをどう思ってるのかなんて答えも出てこなくて。 だけど。 「俺はっ」 ひとつだけわかる。 「俺はハルを一人で苦しませたくないっ!!」 その叫びの後、長い長い沈黙が続いて。 「・・・ふぅん」 「ふ、ふぅんってっ!」 恭弥が興味なさげに呟いたのに、思わず綱吉はずっこけそうになる。 人が精いっぱい悩んで導き出した答えを、ふぅんって・・・!! そう震えていると、恭弥が構えていた腕をおろした。 「それなら、今回は君に加勢した方が面白そうだね。ただし、群れてはあげないけど」 にっ、とまるでおもちゃを見つけた子どものような顔をして笑った恭弥に、綱吉も思わず笑みを浮かべた。 |