追われた鼠は。 「ハルっ!!」 叫ぶ声が、届いた。 視線だけで下を見れば、そこには見上げる綱吉がいた。 どうして、追いかけてきてくれたんですか。 思わずじわりと浮かびかけた涙をはっと呑みこんで、心の中で問いかける。 綱吉に伝えることを望んだ。 自分の心の中にしまったものを、たくさんたくさん伝えることを、望んだ。 けれど、同時に凄く躊躇った。 本当に伝えてもいいのか、綱吉は自分がそれを伝えることを望んでいるのか。 わからなくて。 ポケットの中の、固い存在を布越しにぎゅっと握りしめる。 手を差し伸べてくれたけど、本当はすべてを捨てられない人だとしっていた。 全部捨てたふりをして、迎えに来てくれたけど。 捨てられる人なんかじゃないってことは、知っていたから。 だから、ツナさんが無理して捨てるならば、自分が持っていようとそう思っていた。 でも。 もし。 でも、もしも。 本当にツナさんがハルの為に何かを捨てる覚悟で追いかけてきてくれたなら。 「しり、たい・・・」 知りたい。 どうして、そう思ったのか。 ツナさんがハルのことをどう思ってるのか。 そうだ、だってハルは求めてばっかりいたから。 ツナさんがハルのことをどう思ってるのかなんて分からなくて、ずっとずっと言葉を待っていたから。 「馬鹿、ですよね」 どう思ってるかなんて、そんなこと。 きかなくちゃ分からないのに。 「ハル殿、端は危険です・・・」 心配だという顔で一歩ずつ距離を詰めてくるバジルを見る。 まだ何も知らない。 何も伝えてない。 それなのに、まだ。 「こんなことで・・・」 窮鼠は、そう。 猫を噛む。 「挫けてたら恋する乙女なんてやってらんないんですよっ!!」 ポケットから取り出したお気に入りのピンク色のそれをバジルに向かって、思いっきり振りかぶって、 投げる! それから、それがどこへ飛んでいくのか、どこに落ちたのか、それさえ見ないで振り返って。 「ツナさんっ!」 目を真ん丸に見開いてこちらを見上げる綱吉に向かって地面を蹴りあげた。 |