「っ・・・」
「ひゃっ、」

ハルを抱きかかえたまま全速力で走り続ける。
そのスピードに意識がついてこれないのか、短く悲鳴をあげるハルを落とさないようにと、綱吉はぎゅっと強く抱きしめた。

「ハル、もう少しだから」
「は・・・はひ・・・」

走る音が早すぎて、一つの続いた音にしか聞こえない。
けれどその中で綱吉の声だけはクリアに届いた。



言わなくちゃ。
ぎゅっと綱吉の服を掴み、意志を固く持つ。

昔から好きだという言葉は繰り返してきたけれど、それは本当の気持ちだったけれど。
それでも、本当にはまだ言っていない。

だから、言わなくちゃ。

仲間としてじゃない、友達としてじゃない、ただ一人の、沢田綱吉という人を男の人として好きなんだと。

そう、言わなくちゃ。


「っと、ここなら大丈夫か・・・」
確認するように呟いた場所は小さな公園で。
遊具は一つ二つ程度で寂れている、そんな時に置いていかれたような小さな公園。
こんな所もあったのだと見ていると、冷たいアルミで出来たベンチにそっと座らされる。

「ツナ、さ―――」
口を開こうとしたハルを遮るように、身体を斜めにして向かい合うように座った綱吉が、ぎゅっとハルを抱きしめた。
強く強く。
まるで離さないと訴えるかのように。


「俺が、俺がハルと一緒に逃げてた理由、やっと・・・わかった」
「ツナ、さん?」
耳元で震えるような低い声にぞくりと背筋に何かが走る。
ぎゅうっと抱きしめる彼の腕は強く暖かく、そうして頬より後ろ、耳の上あたりに当たる綱吉の頬は酷く熱い。
この人は男なのだと、そう自覚させられる。
「俺は・・・」

ぎゅうっと、さらに強い力がハルを包む。
その手はいつもなら悲しくなるほど酷く優しく抱きついたハルの腕を引き離すのに。
今、その手は離さないというように強引にハルを抱きしめていた。

耳にかかる息が熱い。
どくどくと高鳴るその心臓の音は綱吉の心臓の音と重なり、同じ速度で響き合う。
痛いほどに抱きしめられて、その強さに思わず涙が出そうになる。

ゆっくりと、ハルは綱吉の首の後ろに腕を回した。


「俺は、ハルが一人で苦しんでるのなんか、嫌だ」


その声は低く、熱く、そうして熔けるように耳の奥に響いた。





低音に熔かされる



( 熱くて、熱くて、まるで熔けてしまいそうな )