「ツナさん」

耳に響くその声の低さが、熱が、まるで全てを熔かしてしまうような気がした。
熱くて熱くて、まるで熱に浮かされてしまいそうだった。


 「クロームに言われて、恭弥さんに言われて、考えてた・・・ずっとずっと」
綱吉の声と、二人の呼吸と心臓の音だけが響いて、他には何も聞こえなかった。
まるで、二人だけの世界のようだった。
「俺はどうしてハルを追いかけてるんだろう、どうしてハルと二人で逃げることを選んだんだろう」

その疑問はハルもずっと抱えていたもので。
どうして綱吉は自分を追いかけてきてくれたのだろう。
どうして、そもそも綱吉は自分と逃げてくれたのだろう。

大切な、仲間だったから?


「大切な仲間だからだ」
ぎりっと心臓を握りしめられたかのような痛みが胸を走る。
仲間という言葉が嬉しくて、けれど同時に酷く痛くて辛かった。
「ツナさん・・・」

「―――そう、思ってたんだ」

ぞくりと、低音が耳を駆け抜け脳に直接響いた。


「大切な仲間だなんて、じゃあ、クロームなら?骸なら?恭弥さんに了平さんにランボに武に隼人なら?・・・京子ちゃん、なら?」
「っ!」
最後に零れた彼女の名前に、思わずハルの肩が跳ね上がる。
彼が好きだった人。
高校生になりイタリアに行くことが決まってからは、憧れだっただけだと、そう彼は笑っていたけれど。
毎日のように沢田家に入り浸っていたから(ある意味これはリボーンの策略だったのかもしれないが)イタリア行きのことを知っていた自分とは違って、まだ何もしらない彼女。
きっときっと、彼は今でも彼女が好きだ。

「・・・ツナ、さん」
「俺は一緒に逃げたのかな・・・?・・・多分、違うと思う」
「・・・!」
ごくりと、息をのむ。
その音が綱吉に聞こえたのだろうか、どこか苦笑するかのような仕草が揺れを通して身体に伝わる。
思考が追いつかない。
ハルとは一緒に逃げてくれた綱吉が、京子とは一緒に逃げはしなかったと思うと言っている。
その言葉が、どこか夢うつつのようで。

「色んなことがあるから。学校とかボンゴレとか復讐者とか幻術とか、現実的な話が」
「・・・」
だから、逃げることなんてできない。
そう語る綱吉の声は遠く、でも近く。

「でも、俺は知りたい。ハルが何を苦しんで、何に怯えてるのか」
知りたいんだ。
そう耳元で響く。

「今ならまだ、間にあうから」

その言葉に、思わず安堵の息を吐いた。
低い声、強い腕の力、抱きしめられてわかる大きな身体。
まるで別の人のように感じていたけれど、やっぱりこの人は沢田綱吉だったのだ。

何もかも、捨てることのできない、優しい人。
あの日大好きになった、ツナさん、なんだ。





まだ、僕らはここにいるから



( 最後の境地へとたどり着くその前に、君と )