「―――ハル」

好き、というその言葉に、思わず身体が震えそうになった。
高校生になって、ふいに彼女はその言葉をあまり口にはしないようになってきた。
流石ですとか、格好いいとか、素敵ですとか、そんな好意丸だしのような言葉はいくらだって口にするのに、好き、という二文字は口にしなくなっていた。
それにどこか寂しさを覚えつつも、むしろ今までが明け透けすぎたのだと、そう思っていた。

濡れた漆黒の瞳に思わず息をのむ。
その息がかかるほど近い距離に、思わず熱がこみ上げるのを感じた。

「ツナさん」

薄紅色の唇が静かに動き、俺の名前を呼ぶ。
じっと俺の目を見ていたその漆黒の瞳から、ぽろりと透明な雫が頬を伝って零れおちていくのがスローモーションのように見えた。

「は、る」
思わず出た声は少し掠れていて、なんだかそれがとても恥ずかしかった。
「ハルは、ツナさんのことが、仲間としてじゃなくて、友達としてじゃなくて、ただ、一人の」
ぎゅうっと、俺の胸に置かれたハルの小さな白い手が俺の服を握りしめる。
ただでさえ近い距離が、ハルが少し前のめりになることによって、さらに近づく。

まるで、

(―――キスをするみたいだ)


「沢田綱吉として、ツナさんのことが、好きなんです」

ぽろり、ぽろりと零れるその涙は、頬を伝い、時折唇をかすめ。
どんどんと濡れ光を受け淡く輝くその瞳はまるで乞うかのようで。
むしろ何故今彼女と触れあっていないのかと、それをおかしく思うほどに。

「ボンゴレだからじゃない、ツナさんにボンゴレの血が流れてるからじゃない」
淡い薄紅の唇が動くのを見るたびに、意識が急激にそこへと集まる。
その濡れた漆黒の瞳から涙が零れおちるたびに、乞われているような気持ちになる。

「ツナさんが、ツナさんだからっ、ハルは・・・ハルは、」


きゅうっと唇を噛みしめてその薄紅色を隠したハルに、一気に意識が飛んだ。


「ハルは、ツナさんだから、好きなんです」




その本能が訴えるままに、強く強く、掻き抱いた。





ただ、ただ、君に触れたい



( それだけが今、細胞全てが訴える事実 )