「んっ―――」


息を呑むような声が聞こえ、その瞳が驚きに広がっていくのをなんとなく感じていた。
ぎゅうっと、尚更強くハルが綱吉の服の胸のあたりを強く握りしめる。

ただ、触れあうだけだった。

その薄紅を割き、粘膜に触れ、舌を絡め取り貪り尽くすのではなく。
ぷっくりと弾力のある薄紅を吸い上げ、食むわけでもなく。

ただただ、押しつけるかのように唇に唇を触れさせていた。


柔らかい。

ぼんやりと瞳を閉じた思考の奥底でそう思う。
楽しそうにケーキを食べる彼女についチビ達にする癖でその唇についていたカスを拭う時に触れたことはあったけれど。
あの時も、酷く柔らかいのだとそう自分の唇と比べてそう思ったけれど。

唇と唇を重ねたその柔らかさは、全然違う。

まるでそこから熔けてしまいそうな感触にみまわれながらも、その唇を離すことが出来なかった。
いや、もう、いっそのこと熔けてしまえばいいと、そう思っていたのかもしれない。
拙く、ただ押しつけるだけのキスは酷く心地が良くて。
まるで折れてしまいそうなほど細く、そして比べ物にならないほど柔らかく暖かいその身体を、強く抱きしめていた。


しっとりと、濡れた感触がより一層溶け合うような感覚を助長させる。
触れあうだけだというのに、それよりも先、触れあうなどではすまないような、そんな先へとはまだ足を踏み出してはいないというのに。
まるで、熔けてしまいそうだと思う。

その柔らかさも、熱も、濡れた感触も。
全てが、まるで熔かされてしまいそうだと、そう思う。

ぼんやりとした思考の中、ただその唇の感触を、自分の唇だけで感じていた。
きっとこれよりも触れていて心地よいものなんてないだろう。
そう思えるほどに、しっくりとまるでピースがかみ合ったかのような、そんな感覚がする。

まるで、夢の中にいるみたいだ。


けれど、その夢をまるで壊すかのようにぴくりとハルの唇が戸惑うように動いて。
綱吉はどこか憮然とした感情を抱えたまま、ゆっくりと名残惜しげに唇から離れていく。

永遠のような、時間だった。




影が熔け合ってから10秒後、影はもう一度二つへと戻った。





ついにはきっと熔けてしまう



( その唇に、その感触に、その温度に、その柔らかさに、その弾力に、君に )