ゆっくりと、一つの影が二つへと変わっていく。

それに呼応するように瞼を開けば、目の前にじっとりと濡れた漆黒の瞳が映って。
は、と漏らした息が唇へとかかる。

ぱちん、とまるで弾けるような音が脳裏に響いた。


(―――あ、れ?)


ハルから少しずつ離れる。
離れる、そう・・・さきほどまで、触れあっていた。
まるで隙間もないほどに。

唇と、唇が。



「―――わぁあああああああ!?!?!?」


「はひっ!」


べりっと。
それはもうそんな音がしそうなほどに、綱吉はハルの背に回していた手を肩に置くと、思い切り引き離した。
そのまま突き飛ばしてしまいそうになって聞こえたハルの悲鳴に、思わずがっちりと肩を掴む。


あれ、ちょ、待って・・・待った・・・えっと。
俺、今。

一体、何をした?

答えは目の前にあるのに、それに辿りつかないように頭は遠回りに遠回りに考えていく。
けれど結局思い当たる答えは一つで。

そう今、まさに。
ハルに、キスをしていた。


「つ、つな・・・さん」
「えっと・・・ご、ごめんっ!!あの、その、なんていうか、と、突然、俺、俺、あの・・・!!」
熱がぐるぐると身体を巡る。
多分きっと自分も同じなんだろう、顔を真っ赤にしているハルの顔が見れなくて。
でも、視線を逸らすことが出来なかった。

「なんか、その、ハルの言葉を聞いてたら、なんか・・・えっと、したくなったっていうか、しなくちゃいけないっていうか、なんていうか、その」
その唇が動くたび、涙がその唇をかすめるたび。
身体の奥底からマグマが噴き出すかのような感覚に襲われていた。
「そのっ」


ふいに、その言葉が唇の中一歩手前まで込み上げた。
顔を真っ赤にして、それでも視線を逸らさないハルをじっと見つめたまま。


その言葉が、唇から零れおちた。


「―――好きなんだっ!」





例えるならキスしてしまうくらいに



( 君が、君のことが、君のことを )