「ツっナさーん!」

隼人はダイナマイトの仕入れに、武は野球部。
リボーンもいない本当に久しぶりの一人を満喫していた綱吉は、その声にそれが終わったことに気づいた。


「ハル」

振り返るとそこには、息を切らせているハルがいた。多分、歩いている途中で綱吉を見つけて走ってきたんだろう。
そんなに急がなくても、どうせ後で家に来るんだろうに、と綱吉は内心苦笑した。
毎日のようにやってくるから、今ではハルのコップすら用意されているほどだ(ダイニングテーブルの椅子と箸もある)。


「こんにちは、ツナさん!・・・って、あれ?獄寺さんと山本さんは・・・」
きょろきょろとハルが辺りを見渡した。

「ああ、獄寺君はイタリアで、山本は部活だよ」
「はひ!じゃあ、ツナさんと二人っきりですね!」

嬉しそうに腕に抱きついてくるハルに、綱吉は小さく笑った。今ではこうやって腕に抱きつかれるのも日常になっていた。


「ツナさん、今日はですね、ハル感謝デーなんですよ!」

話題を提供するのはいつもハルからだった。
女の子とあまり接点の無い綱吉は、女の子にどんな話題をかけたらいいのかわからなくて、ハルのマシンガントークには内心助かっていた。

「ああ、そういえば今日だっけ」
ハル感謝デーとは、ハルの決めている毎月の頑張った自分へのご褒美の日らしくて、同じ決めごとをしている京子と一緒によくケーキを食べにいくらしい。

「と、いうわけでツナさん!ハルと一緒にケーキを食べにいきましょう!」
え、と思った時にはすでに腕を引っ張られていた。

「ちょ、何がというわけでなんだよー!!」

振りほどこうと思えば振りほどけるそれを、あえて振りほどかなかったのは慣れきってしまったせいだと思う。




いつものハルって、こんな感じでよいんでしょうか・・・。
色とりどりのケーキを眺めながら、ちらりと所在無げに立っている綱吉を見た。
ハルの視線に気づくと、困ったように笑みを浮かべる。・・・いつも、そんな顔ばっかり。


数日前のリボーンの言葉が頭の中に巡っていた。
でも・・・ハルがハルのままじゃ、ツナさんを振り向かせるなんてできませんよ・・・。


「あれ?ハルちゃんにツナ君?」


ふと馴染みの声に顔をあげると、そこには京子がいた。

「京子ちゃん!」
痛い。
今まで困った顔をしていた綱吉の顔が輝いて、それにハルは思わず俯いた。

京子は綱吉の好きな女の子で、中学校の時から可愛かったのに、高校になった今では髪が伸びて奇麗になった。
ツナさんがずっと好きなのもしょ―――。

『みーどりたなーびくーなーみーもーりーのー』

「はひっ!?」

突然思考を遮るように流れた着うたに、ハルはビクリと体を震わせた。この音楽を指定してある人物は、たった一人しかいない。
開いてみれば、やっぱり予想通りの人物の名前があって・・・あの人、ハルを完全にパシり扱いしてますよね。


「雲雀さんです・・・。すみません、ツナさん。ハルちょっと行ってきますね?」
いつもデンジャラスな雲雀さんですけど、今回だけは頭を下げて感謝したい気分です。

「大丈夫?俺も行こうか?」
心配そうに見てくる綱吉に首を振って、ハルはケーキ屋を出た。


今日はもう、綱吉の顔は見ていたくなかった。





傷つくことは恐くて



( 私だっていつも笑っていられるわけじゃない )