しんと静まった中で、リボーンがため息を吐いた。


「ツナは今まで俺に強引にいろいろと課せられて来たことをこなすのが普通だった」
けれど、それではだめだ。

「ドン・ボンゴレになるのならば、それじゃダメだ」
家庭教師に言われたことをみんなに進言するボスではだめなのだ。
自分の頭で考えて、答えを出すボスでなければ、意味がない。
ボスが考えて考えて導き出した答えだからこそ、部下はそれを信じていこうとする。


「これからツナにはどんどんと仲間が増えていくだろう。そうすれば、頼られることも増えるだろう」
今の状態だけでも、ツナは迷うのにな。
これ以上増えて、本当に引っ張っていけるのだろうか。
「ツナは今まで以上に、お前の指示についていくという言葉に重圧を感じるようになる」


誰もが期待をする目で見てくるのだ。
誰に振っても、お前の指示についていくと、綱吉にしては丸投げされてしまうのだ。
それはどれほど肩に重たくのしかかるだろう。


もう誰も発言するものはいなかった。
ただ、ただ、リボーンの口から語られるボンゴレ十代目に耳を傾けていた。



「そうして、何が必要か」
その重圧に押しつぶされそうな綱吉に、何が必要か。

「疲れているかと顔をうかがい引く人間じゃダメだ。強引に引っ張って、ツナに決めるという選択肢を奪う人間が必要なんだ」

決めなくてもいい。
それはお前が決めろと重圧を与え続けられた人間には、どれほど楽なことだろう。
どれほど、肩の重荷を軽くすることだろうか。


「他人を引っ張ってばかりだと、引っ張られることがどれほど楽なことか、自覚する」
ハルは、綱吉の隣に立つんじゃない。その前に立って、綱吉の手を引っ張る人間だ。
「期待という名の重圧も、信頼という名の負担も、どれほど肩に重くのしかかることか・・・」


綱吉の右手が、そのたくさんのものを引っ張っていかなければならないといしよう。
引っ張ることも精一杯なのに、目の前の選択肢が正しいものかどうかなんて判断する余力が、あいつに残るもんか。

本当に、あいつは一般人だった。
変な話だけれど、そうしてそのまま綱吉が深い深い闇に落ちるのは、嫌だった。


「確かに、強引なばっかりじゃうぜぇかもしれねぇ」
だけど、心配することはない。
「だが、ハルはツナを信じている」


ハルが道を誤るということは、なぜか考えなかった。
何故なら、たくさん考えなければいけないツナとは違って、ハルが考えるのは道を逸れそうになったツナの手を、正しい方向に引っ張ればいいだけなのだから。
だから、何の心配も不安も浮かばなかった。

闇の中の光は、一層映える。



「信じているツナの手だから、強引に引くことを厭わない」
ハルのツナへの信頼はツナへと押しつけているものではない。
むしろ、ツナの意見なんて放置で、勝手にそう思っているだけだ。
だから引っ張っていける。


「ツナが後ろでこけたりなんてしないと信じているから」
たとえ、こけそうになったとしても、引っ張っていける。





その手を引く手



( 暖かく、優しくて、愛おしい )