リボーンが笑いながら出て行ったボンゴレの執務室で、綱吉はポカンと口をあけた。 「(に、逃げたって・・・逃げたって、何考えてるんだよ!)」 まさか2年たった今もハルが自分のことを好きだなんて自惚れてはいなかったからこそ、綱吉はハルの思考を理解することが出来なかった。 見合いだと聞いた。 運動もでき、頭もよく、人望もある真面目な青年。ハルとはたった2歳違いで若いのに助教授で裏に繋がりはなく、まさに絵に書いた好青年。 プライベートでもかなり家族とも仲が良く、ハルともすぐに打ち解けたらしい。 手を繋ぐまでしか進んでいないというのは、リボーンがおせっかいにも伝えてくれた情報だ。 ・・・じゃなくて! 綱吉はぶんぶんと頭を振った。 ――「絶対に――置いていったこと後悔させてやるんですから!」 ハルの言葉が頭に蘇った。 結婚するということを聞いたときに、もうハルはその言葉を忘れてしまったのではないかと思った。 綱吉の気持ちは伝えていないため、ハルが結婚しようとなんだろうと、ハルとしては綱吉を後悔させる、ということにはならないはずだ。 決別のためにもイタリアで式をあげたのだろうし、ハルは綱吉の気持ちには気付いていないはずで。 そう考えてさらに綱吉の頭の中には疑問が残った。 「・・・なんで、逃げ出すなんて・・・」 好青年だと聞いた。真面目で責任感があり、まるで人間の理想そのものを表したかのような好青年。 見合いだとしても、ハルが結婚へと踏み出したならきっと良い人間なんだろうと思った。 なのに、なんで花嫁は逃げだしたのだろうか。 綱吉には一切ハルの思考が分からなかった。 そうして、まさかそこで自分のことが忘れられないから逃げ出した、なんて思考も持ち合わせていなかったのである。 「たた、大変です!十代目!!」 突然飛び込んできた隼人に、綱吉の思考は一端切れた。 ふと扉を振り返れば肩を縦に揺らしながら荒い息を吐く隼人がいて、綱吉はきょとんと首を傾げた。 「どうしたの?隼人。何かあった?」 隼人が飛び込んでくるということはたびたびあったので、綱吉は落ち着いたまま言った。 それに隼人はゼーハーと荒い息を整えてから顔を上げた。 「その、骸がどうやら失敗したみたいで・・・」 「骸が!?」 その言葉に綱吉は瞠目して驚いた。 まさかあの任務達成率90%を出しつづけてきた骸が失敗? (ちなみに残りの10%は失敗率ではなく過度な死傷者の出しすぎによるものだったりするのだが) とりあえず突然の言葉に綱吉はそれで?と続きを促した。 「クローム以下骸の部下によると、若干体調が悪そうだった、ということです」 任務の前に執務室に来させればよかった!と綱吉は激しく後悔した。 だが、問題はそれだけではなかった。 「それで、骸は・・・?」 「只今逃亡しているようで・・・」 言いよどんだ隼人に、綱吉は怪訝そうに顔を歪めた。 「何かあったの・・・?」 不安気な顔をする綱吉に、隼人は意を決して口を開いた。 「その、逃亡を手伝っているのが、黒い髪の花嫁だそうです」 時が、止まった。 「えぇえええええええ――――!?」 |