「ちょ、ちょっと!何やってるんですか君は!」

引っ張る骸の抵抗が無いのをいいことにグングンと進んでいくハルに骸は叫んだ。
何故外にいたのかは骸には分からなかったが、結婚式があるはずじゃなかったのか。
最初の疑問も内なる疑問も答えることなく、ハルはただ裏路地を片手でウェディングドレスを掴んで、もう片手で骸の手を握って走っていた。



「ハル!聞いているんで、」
「ああもう煩いですよ!男なら黙ってついてきてください!」

何だか絶対に違う気がするんですが・・・。
喝を入れたハルに骸はこれ以上口を挟むことも出来ず、がくりと項垂れて溜息を吐いた。


「仕方がありませんね!こっちです!」
こうなったら覚悟を決めるしかない。

どうせハルの姿は目撃されてしまっただろう(なんと言っても花嫁姿なのだから)。
ならばもう一緒に逃げるより他ない。
腹をくくると、骸はハルの手を導いて裏路地を逃げ出した。

兎に角、ボンゴレのところへと帰ってしまえばこちらのものである。




駆け出した骸に引かれ後方を続いて走っていると、骸は突然立ち止まった。
「・・・居ますね」
そうして漏れたのは溜息。
骸の視線の先をそっと覗いてみたけれど、ハルの目に映るのは大きな屋敷とその前を歩く通行人だけだ。

「あ、あの、誰がいるんですか?」
神妙な骸に小さな声で話し掛けると、骸は見えますか?と通行人の十何人かを指した。
何の変哲も無い、一般人だ。



「あれは全て敵です」
「はひっ!?」
骸の顔を驚きの表情で見上げて、それからもう一度通りを見たけれど、どうしても普通の通行人にしか見えない。
ハルの戸惑いに骸は小さく笑って答えた。


「気配が違います。それにあまり手馴れではないみたいですね・・・殺気が出てます」
「は、はぁ・・・」
ハルにはさっぱりです。

そういうと骸は、分からないでいてほしいですよ、と若干自嘲気味に笑った。


「全く、ボンゴレも何をしているのか・・・」
何のための超直感ですか・・・と骸は大きく溜息を吐いた。

そんな骸の横でハルは大きな屋敷を見上げた。
あそこに、綱吉がいる。

本当は、あそこに駆け込んでいきたかったけれど隣にいる骸を置いて行くことは出来なかった。
置いていってもし何かあったら、絶対に後悔する。



「ハル、とりあえず地下で体制を整えましょう。裏路地とはいえ人が居ないわけではありませんからね」
特に君の格好は目立つ、と指す先のウェディングドレスを見て、ハルは若干口を閉ざした。
確かにこの格好はこの上なく目立つだろう。

「あの、地下ってどうやっていくんですか?」
まさかマンホールから・・・?と顔を心配の色に染めたハルに骸はふと小さく笑う。

「まさか。ですが少し走りますよ」
何せ大通りを横切りますからね、と真面目な顔をして言う骸に、ハルも顔を引き締めて頷いた。





本当は駆け出したい



( だけど私は後悔だけはしたくない、あなたの傍で出来ることをしてあげたいって望むんだから )