「とりあえず、ここなら多少なら休憩できるでしょう」 はぁ、と腰をおろした骸の横にハルも腰をおろした。 地下道を抜けて、途中で水路を遮るさいにお姫様抱っこされたりなど色々あって、広い場所にたどり着いた。 ほんの、わずか。 それこそ耳を澄ましていなければ聞こえないほど小さいけれど、骸の吐く息が荒い。 上気した頬はさらに赤みを増していて、それと対象のように額から目にかけては青い。 「(悪化してるみたいです・・・)」 ハルはどうにも出来ないことに歯噛みをした。 目を閉じてささやかな体力回復を試みている骸を見て、考え込んだ。 それからものの10秒もしないうちに、ぱっと顔を上げた。 「骸さんとハルの衣装を交換してはどうでしょう!」 まさに名案!と言わんばかりにハルの顔が輝いた。 「・・・はい?」 若干興奮しながら言うハルに、骸は呆然とハルを見あげることしか出来なかった。 展開についていけない骸を無視して、ハルは生き生きと語る。 「まさか骸さんがウェディングドレスを着ているとは思わないはずです!身長差は覚えられているでしょうから逆にして敵の目を誤魔化すんです!」 胸を張って言うハルに、骸の頭はすぅーっと冷えるように冷静になった。 「あの・・・阿呆ですか、貴方」 「へ?」 長い溜息を吐いてから呆れたように言う骸に、ハルは不思議そうに首を傾げた。 彼女にとっては一番の最善策だった。 「僕は今出血をしているんですよ?右目も今は使い物にならないし・・・そんな傷だらけの花嫁をおかしいと思わない人物がいますか?」 それに、と骸はハルのウェディングドレスを上から下へと見た。 ふんわりとレースを使ったスカート部分、そして上はキャミソール型。 男が着るにはかなり見苦しい、しかも成人男性となれば尚更である。もうごまかすとかそんなレベルではない。 「そうですか・・・」 名案だと思ったんですけど・・・とハルは俯いた。 それから数秒することもなく顔を上げて、骸は今度はどんな案を出してくるつもりですか・・・と溜息を吐いた。 「ナイフを貸してください」 「は?」 けれど彼女の口から出てきたのは常識を考えろといいたくなる案ではなく、骸はきょとんと目を開いた。 「ナイフです。ナ・イ・フ。持ってますよね?」 ハルは聞こえなかったと思ったのかもう一度繰り返した。 「え、ええ。持ってますが・・・」 「じゃ、貸してください」 にっこりと笑うその気迫に負けて、骸はあっさりとそのナイフを手渡した。 刃渡り16cm。 ナイフというにはお粗末なものだったが、人の命を奪うのには十分な長さである。 少しボーっとし始めた骸の頭にはハルの行動を予測することが出来なかった。 そうして、そのナイフを確認したかと思うと、 「・・・な、何してるんですか・・・!?」 「はひ?」 その光景に骸の顔は上気した頬なんてどこかに飛んでいってしまったかのように一気に青ざめた。 |