「ひゃっ!」 突然浮かんだ体に、ハルは身を竦めた。 「捕まって目を閉じていなさい」 入口で小さな声で言う骸に、ハルは首を傾げた。その反応に骸は自嘲気味に口を吊り上げて笑う。 「これから強行突破をします。これから先の光景は、少し君には辛いものがあるでしょう」 その言葉に、ハルは何をするのか一瞬でわかった。 大量の人が外に出払っているとはいえ、ここに人がいないわけじゃない。 なら、答えはひとつ。 少なからず数人は人が死ぬかもしれない、ということだ。 「――っ!」 「だから、目を閉じていなさい」 すぐにすませます。そういう骸に、ハルは言葉を失った。 その優しい言葉のままに目を閉じようとして、ハルはふと止めた。 「(でも・・・ツナさんの傍にいるためには、見なくちゃいけないもの、なんですよね)」 安易な覚悟かもしれない。 もしかしたら見た後でショックを受けてしまうかもしれない・・・いや、受けるだろう。 そんな軽い覚悟だけれど・・・ああ、そうじゃない、そうじゃなくて。 「骸さんの右目の代わりになるために、ハルは目を開けてます!」 そんなことよりもなによりも、骸を死なせたくなかった。 半分の視界が見えないうえに人一人を抱えた骸が満足に戦えるはずもない。 闘う知識なんて全くないハルでもはっきりと分かることだった。 「君が見るべき光景ではありません」 眉間に皺を寄せて溜息を吐く骸に、ハルの頭の中で何かが切れた。 「それで骸さんが死んだらどうするんですか!」 阿呆じゃないですか! ギロリと睨み上げて言うハルに、骸は言葉を失った。 「ハルだけそこから逃れるなんてとか、骸さんも見てる光景だとか、ツナさんの傍にいるためには見なくちゃいけない光景だとか――」 一呼吸して、ハルは泣きそうに骸を見あげた。 「そんなものはどうだっていいんです。ハルは、骸さんが死んだらいやなんです・・・」 もしかして、目を開けていたら。 そんな仮定が存在する先に残るのは、絶対にたくさんの後悔。 綱吉の仲間だからとか、後味が悪いからとか、そんな大義名分振りかざした考え方じゃなくて。 ただ、死んだらいやなだけ。 それだけ。 「・・・・・・」 じっと見つめてくる視線に、骸は溜息を吐いた。 綱吉に降ると決めたあの時から、こういう目には弱かった。 「しっかりと働いてくださいよ、僕の右目になるなら」 「骸さん!」 その言葉にハルの顔が一瞬で輝いた。 扉の前で骸はハルを抱きかかえたまま深呼吸をした。 チャンスはたった一度、失敗すれば全てが終わる。 「行きますよ!」 その叫びと同時に、骸はハルを抱きかかえたまま中に飛び込んだ。 |