好きな笑顔と言われて浮かぶのが変わったのは、何時からだっただろう。 綱吉はぼんやりと数字の羅列するワークを見つめながら思った。 「――で、答えは113になるんですよ。分かりました?」 目の前で首を傾げるハルに綱吉が頷くと、ワークの上の健康的な色の細い指が次の問題を指した。 綱吉は必死にその指を見ないように数字だけを目で追って、耳に入ってくる声の言葉に集中した。 今、この部屋には眠るリボーンが居なければ二人っきりだった。 余裕の隼人はイタリアに仕入れに行っていて、スポーツ推薦なるものを貰っている武は店の手伝い、京子に至っては綱吉に誘う甲斐性が無かった。 「(――なんで、今日に限って)」 いつもなら起きて勉強を見張っているリボーンはいつものハンモックで眠っていた。 「だから、ここは4になるんです」 またわかりました?というハルに綱吉は短く返事をした。 いつにない集中力で勉強できていると思う・・・内心で綱吉は溜息を吐いた。 外から犬の遠吠えに猫の鳴き声、車のエンジン音等等たくさん聞こえるのに、綱吉の耳に入ってくるのは何故か一つの声だった。 「それじゃぁ――」 といって、ハルの健康的な色の細い指が次の問題を指そうとしたときだった。 「おい、ハル。そろそろ帰ったほうがいいぞ」 ふと、いつのまに起きたのか、リボーンは窓に腰掛けていて、視線を向けると外はどっぷりと暮れていた。 「は、はひ!本当ですっ!」 いつのまにこんな時間に、とハルは時計を見あげると忙しなく片付けをはじめた。ペンケースに教科書、ワーク、ノートを鞄に収めると、コートを着てささっと帰り支度を終わらせる。 「それでは、ハルは帰りますね!」 立ち上がってひらひらと手を振るハルに、リボーンが綱吉に背後から銃を向けた。 「お――」 「ちょ、ちょっと待てよ!ハル!」 声をかけようとした瞬間、綱吉は急いで立ち上がった。 「はひ?」 「送ってく。ちょっと待ってて」 コートを取り出した綱吉にリボーンは銃をおさめた。 「へ?い、いいですよ!ハルは塾で慣れてますから!」 「いいから送る」 ぶんぶんと首を振るハルに綱吉が頑なに言って、ハルの手を引いて外に出た。 「はひー、満天の星空です」 冬は夜になるのが早いですね、と笑うハルに綱吉も微笑を返した。 「ごめんな、ハル。俺の勉強につき合わせて」 本当はハル一人でやったほうが効率あがるのに。そう呟いた綱吉にハルは盛大に首を振った。 「いえ!ハルはツナさんのお役に立ちたいんです!ツナさんと絶対に机を並べるんです!」 並盛高校で!と意気込んだハルに綱吉は苦笑する。 3年後にはもうハルと一緒に勉強をすることすら出来なくなるんだと思った。 「ツナさん」 「ん?」 くるりと振り返ったハルに、綱吉は首を傾げた。 「中学だったら行事とか無理でしたけど・・・高校では一緒に学校の思い出作りましょうね」 少しだけ泣きそうなハルに綱吉は苦笑した。 「――うん」 少しだけ置いて行くのはいやだな、なんて思った。 |