ハルが髪を切った。 「・・・どうし、た?それ・・・」 バッサリと肩にもつかない位置で切られた髪に思わず触れた。 そうしたら、ハルがくすぐったそうに、困ったみたいに笑って、首を傾げる。 「イメチェン、ですよ?」 違う、嘘だ。 アイツと結ばれるための願かけだって言ってたのは誰だよ。 なら諦めた?・・・それも違う。 「京子が、髪を伸ばしてるから?」 ピタリとハルが固まる。 京子はハルと反比例のように髪を伸ばしていた。 「・・・違うんです、違うんですよ。本当にイメチェンで、それ以外の意味なんてなくて。・・・ただ、ツナさんに気づいてほしくて」 「アイツは、気づいた?」 段々と俯いていくハルに問うと、弱弱しく一つ頷いた。 「何て、言ってた?」 ああ、多分この問はハルを泣かせてしまうことになるんじゃないかと思うけど、でも聞かずにはいれなかった。 長くて奇麗な髪だった。 毎日大切そうに手入れをしていて、光を受ける黒髪は艶やかで奇麗で、枝毛一本もない髪に京子が憧れていたことも知っていた。 そうして、真似をするように髪を伸ばしていたのも知っていた。 「驚いて、ました・・・よ。印象、違うって」 声が震えてきて、手が服を強く握っていた。 震える肩は弱弱しくて、今にも涙を落してしまいそうな目を気丈に上げて、真っ直ぐに俺を見る。 京子の髪が伸びていく度に、ハルは叫びだしたくて仕方がなかったのかもしれない。 本当は、ハルは京子を真似たかった。 それでも意味がないことを知っていたから、正反対でいようとしていた。 「似合ってる、って・・・言って、くれ、まし・・・」 「無理、しなくていいよ」 ついに視界を彷徨わせ始めたハルの体を引っ張って、ぎゅっと抱きしめた。 意図的にハルの手を振り払おうとするアイツのことだから、きっとハルの髪をほめたりなんてしなかった。 似合ってるって言ったと思う。もしかしたら、でも前の方が良かったよなんてことも言ったかもしれない。 けど、その髪を見て、アイツは決して可愛いなんて言わない。 「ひとっ、一言で、良くてっ!ハルは、ちょっと、褒めて、ほしくてっ!」 「―――可愛いよ、ハル」 何てハルにとって残酷なことなんだろう。 望んでいた言葉を望んでいた人に言われることもなくて、俺なんかが言って。 それでも、耳元で囁くように何度もつぶやいた。 「可愛いよ、ハル。よく似合ってる」 これくらいの言葉、俺ならたくさん言えるのに。 ハルが望むだけたくさん、それ以上だろうと何度だろうと、声が枯れようと。 俺はハルを愛してるから。 「・・・ありがとう、ございます」 君が、この愛に溺れてくれればいいのに。 |