「流されて、しまおうかと思ったんです」
困ったように笑うハルに、隼人は訝しげに眉を寄せた。

「あの人に自分ならそんな思いにさせない、好きだって言われて、流されてしまおうかと思ったんです」

「――なっ!!」
ハルの言葉に、隼人が怒りで顔を染めた。


「流されるだとっ!?てめぇの十代目への気持ちはそんなもんな――」
「だって、ずっとずっと振り払われてるのにっ!!!」

隼人の声を遮るように叫んだハルの声は、酷く泣きそうだった。


「ずっとずっと、好きだって言うたびに知らないふりされて、振り払われてっ!!」
ついにポロリと涙がこぼれた。
耐えきれないようにハルの膝がガクガクと震えて、そのまま顔を伏せて崩れ落ちた。

「・・・ハル・・・」

「辛かったんです、悲しかったんです。それでも大好きで、でも悲しくて、辛くて苦しくて・・・そんなとき、優しく抱き締められて。拒絶することしかできなかったっ!流されたらどれだけ楽なんだろうって・・・思っちゃったんです・・・!!」


涙は止まる気配を見せなくて、微妙に伸ばしかけた隼人の手はゆらゆらと揺れるだけだった。
きっと、流されたとしても、誰も責めたりなんてしなかった。


「でも、だめ・・・だめなんです」
ふるふると首を振ると、涙が小さな粒になって散った。

「だって、ハルのこと凄く好きでいてくれてるんです」
「・・・ああ。たぶん、高校の時くらいからだな・・・」
ハルを見る目は、凄く優しかったから。
それを見て綱吉が唇をかみしめていたのも知っていた。


「それなのに、ハルだけ楽な方に逃げるために流されるなんて・・・だめなんです」

凄く凄く好きでいてくれるだろうから。
流された自分をとがめることなく愛してくれて、ぎゅっと抱きしめてくれるだろうから。

だから、間違えちゃだめ。


「そんなの、あの人への侮辱なんですっ!」


絶対に、絶対に流されちゃいけない。


あれだけ自分を愛してくれる人へと、きちんと想いを返せないのに、そんなの・・・そんなの。
そんなの、ただハルが楽になるだけだから。

「あの人の腕の中は、凄く凄く暖かい場所なんです。優しくて、安心する場所なんです・・・。でも、ハルは抱きしめ返してあげることは、きっと出来ないんです」

だって、ずっとずっと想い続けてきた人がいるから。
人生で一番っていうくらいに、恋をした人だから。

「だから、諦めちゃいけないんです・・・」
「・・・ああ」
ポタリポタリと静かに涙が流れる。


たくさんたくさん愛してくれた人のために、どうしてもできないことがある。
「ハルは、あの人の愛に応えない以上、ハルはどれほど辛くてもツナさんを想い続けなくちゃいけないんです。諦めちゃ、ダメなんです」

あんなに、あんなに優しい人の手を拒む。
誰よりも優しく微笑んでくれる人の伸ばしてくれる手を、振り払うから。
だから、絶対。


「ハルは、ツナさんを諦めちゃいけないんです・・・」





それはもう恋なんかじゃない



( こんなにも辛くて悲しくて痛いこれは、恋なんかじゃない )