鈍い音が、響いた。 それは俺が綱吉の頬を殴った音で、殴られた綱吉は倒れるまではいかなくてもグラリとバランスを崩して右足でバランスを取った。 綱吉は、何も言わない。 俺も、何も言わない。 さっきまでうずくまって泣いていたハルが逃げ出した部屋はやけに静かで、息の音すらも聞こえなかった。 鈍い音が、響いた。 また綱吉の頬を殴る、何度も。 綱吉は抵抗しないで、俺に殴られるがままで、それでも綱吉は倒れなかった。 「っ、いい加減に、しろよっ!」 そう叫んだのは俺。 言う立場としては逆だけど、間違ってない。 やっぱり綱吉は何も言わなかった。 「ハルはずっと傷ついてたっ!」 目の前が水でいっぱいになって、歪んで、綱吉の顔はよく見えない。 ひとつまばたきをすれば目の前の水が頬に流れたけど、また水でいっぱいになる。 悔しい。 「ずっと泣いてた!今日だって、今だって!」 理由を知ってたか、お前は。 ハルはずっと、ずっとずっと、お前のことで泣いてたんだよ。 俺のことで泣いてくれたことなんて、一度もなかったよ。 ずっとずっと、お前のことばっかりで、お前のためだけに、お前が原因で、泣いてたんだ。 昔から、ずっと。 「誰のせいだと思ってるんだよっ!」 綱吉の顔が見えない。 ああ、畜生、悔しい悔しい、何で俺が泣いてるんだよ、違う、違うだろう。 ずっと泣いてたのはハルで、これから泣かなくちゃいけないのは綱吉、お前だよ。 ずっと泣いてたハルのために、今度はお前が泣く番なんだ。 それで今更ハルのことに気づいて、それでも待っていてくれてるハルを、抱きしめなくちゃいけないんだ。 俺じゃなくて、お前が。 「認めろよっ!自分に向き合えよっ!!京子ちゃんが好きだ?そういいながらお前は誰を見てるんだよっ!」 いい加減にしろよ。 都合のいい時だけ笑顔を向けて、都合の悪い時には振り払う。 ハルはお前のおもちゃなんかじゃないだろ? ハルは、ハルはずっと泣いてる、小さな女の子だよ。 それをお前が知らないで、どうするんだよ。 俺じゃ駄目なんだ、どれだけハルが好きでも、ハルを愛してても、ハルには俺じゃ駄目なんだよ。 お願いだから、頼むから。 「自分と向き合って、素直になって・・・それがどんな形でもいい、ちゃんとハルに伝えろよ」 凄く凄く悔しいけど、お前じゃなくちゃ駄目なんだ。 俺でも他の人間でも駄目なんだ、お前じゃなくちゃ駄目なんだ。 「俺じゃ、ハルを抱きしめてやれないんだっ」 どれだけ望んだとしても。 |