次の日、ハルの様子はひとつも変わらなかった。 蹲って泣いていたことも、俺の姿を見て目を見開いて逃げ出したことも、そのあとの俺とあいつの会話も。 全部全部、無かったみたいにハルはひとつも変わらなかった。 変わらなかったと、思っていたかった。 「おはようございます!ツナさん」 「おはよう、ハル。今日も早起きだね」 「そりゃツナさんに一番におはようございますって言うためですから!」 決して直ることのない彼女の癖であるはひーという言葉を叫びながら、ハルが笑う。 その口癖も、昔はウザいと思っていたけれど慣れてしまえば可愛いもので、逆にそれがないと落ち着かないくらいになってくる。 ハルが笑って首をかしげる度に、短い髪がさらりと揺れた。 そういえば、どうしてハルは髪を切ったんだろう。 しっかりと手入れをしているのか、凄く綺麗で長い髪だった。 真っ黒でキラキラと光っていて、しっとりとみずみずしいのに風に吹かれるとサラサラと糸が舞う。 京子ちゃんがそんなハルの髪に憧れて、髪を伸ばしていた気がする。 きれい、だったのに。 「ツナさん?どうかしましたか?」 ハルは笑う。 まるで昨日のことなんて何もなかったみたいに、いつもどおりに笑う。 「いや・・・ううん、その・・・」 ・・・どうしよう。 ハルが髪を切って大分経つっていうのに、今更何で髪を切ったのなんて聞けるはずもない。 普通切ったときに聞くもんだろ・・・俺。 「はい?」 「その・・・髪・・・」 ハルの髪は本当に長くて、太ももくらいまであった髪は一度も別の色になることはなかった。 そんなもの興味はないみたいに、いつだって真っ黒で、それが凄くきれいだった。 真っ黒で真っ黒で、それで凄く光輝いていた。 今は、肩にもつかないくらいに短い。 「はひ?紙?」 きょとんとハルが目を見開く。 長かったハルの髪は綺麗だったのに、なぜか凄く違和感があって。 ・・・ああ、そうか。 ハルの性格がなんだか長い髪と合わなくて、それで、凄く違和感があったんだ。 今のハルの髪ももちろん綺麗で、だけど違和感はない。 「えっと、ハル、その」 ハルは笑う。 蹲って泣いていたことも、俺の姿を見て目を見開いて逃げ出したことも、そのあとの俺とあいつの会話も。 全部全部、無かったみたいにハルは笑う。 それが、凄く安心した。 「なんですか?ツナさん」 俺の言葉を待つハルに、意を決して言った。 「その髪、ハルに似合ってる」 |