「今日はどんな髪型がいい?」 梳かさなくてもサラサラな髪にそっと櫛を沿わせながら、後ろ向きのハルに声をかける。 高めの椅子でフラフラと足を動かしていたハルが、手を顎に沿えてむーと考えるように唸った。 「じゃあ、二つに分けて高い位置でみつあみにして、ぐるっと一周させて上でリボンで結ぶ、チャイナな感じでお願いします!」 「高い位置でみつあみ・・・ああ、なるほど。了解」 何年思い続けてきたかきっと知らないだろうけど、こんなイメージをそのまま言葉にしたような言葉でもすぐに理解できるようになった。 こういうところが子どもっぽくて可愛いのだと思ってしまうあたり、俺はもうどうしようもないかもしれない。 手で掬うとサラサラ逃げてしまう髪を逃さないように櫛でかき集める。 「ハルの髪はいつもサラサラだな」 「そりゃ毎日トリートメントにヘアパックをしてケアを頑張ってますから!」 むんっと力をこめて言うせいで、手の中からさらりと髪がこぼれた。 「あーもう、ほら。動くなって」 「はひ・・・すみません・・・」 今度はしょぼんと落ち込む起伏の激しいハルに、思わず笑いが零れる。 こういう自分の感情に素直なところは、ハルの最大の長所だ、と思う。 まぁ・・・恋は盲目っていう言葉を使うと俺にとって・・・っていう前置きがあるけど。 きっとさっきのトリートメントだのヘアパックだのっていうのも「綱吉のために」という語尾が付くだろうから、一緒でいいだろ、うん。 「サイドはどうする?全部まとめる?」 「そうですね!お願します!」 意図的に見せないように鏡は納めてあるので顔は見れないけれど、きっと満面の笑みで言っているのだろう。 これから、綱吉のために可愛くなるんだろうな。 っていうかあいつなんて可愛いの一言すら言わねぇじゃねぇかよ・・・いや、中国風っぽいねーくらいなら言うだろうけど。 俺だったら・・・。 「可愛くしてやるから、おとなしく待ってろよ?」 「はひ!お願いします!」 ハルがもういいって言うくらいにいくらでも賛美の言葉を尽くすのに。 ・・・わかってる。 ハルは俺じゃなくてアイツに言って欲しいんだってことくらい。 そっと髪を掬って、さらりと逃げ出しそうになるそれを軽く握って零さないように閉じ込める。 髪なら、簡単なのに。 これから綱吉のために、可愛くなるハルにちょっとした意趣返し。 なんて、気付かれないようにしてるから気づかないだろうけど。 いつものように髪を引っ張らないように持ち上げて、そっと髪に口づけを落とした。 俺が言ったらハルが困るってことを知ってるから・・・この想いは言わないから。 この髪が長い間だけは、絶対に言わないから。 なぁ、これぐらい許してくれよ。 |