「それにしてもまぁ・・・よくこれだけ集まったよなぁ・・・」

その情報の量に唖然とする。
確かにそこへと上り詰めるにはこれくらいは必要だとは思っていたけれど。

こっそりと連絡を取りながら計画を進めていた相棒でありこの計画の主役である彼女は、柔らかに笑った。

「ふふ。ハッキングしてみると、意外と集まるものですよ?」
「・・・そこまで詳しいハッキングを教えた覚えはないんだけど・・・天性の才能かも・・・」

ずらり、と並びに並んだ情報に息を呑む。

近くまで手助けした上で、動いたのはハル一人。
徹底的に痕跡を残さない方法だけは教え込んだけれど、まさかこれだけの情報を得るとは思っていなかった。

しかも曖昧ではない、確固たる情報。


「・・・これで、ツナさんの傍にいけるんですよね」

その言葉に、ズキリと何かが痛む。

何も持たないハルは、たとえイタリアに行ったとしても綱吉の傍にいることはできなかった。
だからこそその傍にいる手段のために、ハルはここまでやってのけたのだ。

・・・どれだけ、綱吉が好きということを表しているんだろうか・・・このデータの量は。

「うん・・・いける、よ」

傍にいれる。

手助けをしたとはいえ、たったひとりでこれだけ集めたハルのことだ、その場所にいたとしても引きずり落とされることなどないだろう。
怨恨が生まれても、そんなものは芽を生やす前に摘み取ってしまえばいい。

「それじゃ、行くか」

そう腰をあげて歩き出した先は、綱吉のところではなかった。




スクリーンを見るために薄暗くした部屋の中で、それでも目の前で指を組みデータを見ている彼が若干眉を寄せているのがわかる。
そんな彼の前で、ハルは毅然と背筋を伸ばしていた。

「以上、です」
ぷつん、と音がして画面に何も映らなくなったと同時に、彼が深く深く息を吐いた。


「・・・これは、君が?」
「俺ではありませんよ・・・彼女が」

尋ねる彼にハルをさせば、彼は少し眩しそうに目を細める。
闇の影すら見えない女性、その彼女が持ってきたデータは組織に生まれる膿を排除するには十分だった。

本当に、恋をする女ほど恐ろしいものはないと思う。


「君がほしいものは、何だね」

今度は俺ではなくハルを見て問いかける。
それにハルは少しだけ首をかしげて可愛らしく笑う。

けれどその瞳に光るのは、どこか狂おしいほどに真っ直ぐな、それでいて何よりも鋭い狂気だった。

「ハルが欲しいものはお金でも栄誉でも何でもありません」
恨みなどいくらでも買ってやるし、取り入ったと卑下されようともどうでもいい。

ただ、ただ。


「あの人の傍にいられる、その席がほしいだけです」


そう柔らかに笑う。
まるで恋を語る小さな少女のように、朗らかに、そしてはにかむように、幸せを語るかのように。

それに観念したかのように、彼がゆっくりと了承の意を持って頷いた。



「・・・あ、やっと来たか」
と同時に騒がしいほどに走る声が複数、足音からして我らがボンゴレ10代目とその右腕と、自称肩甲骨・・・もとい、野球バカ。

バンっと荒々しく扉が開くと同時に、ハルが扉に向いたまま立ち上がった。

「っ、ハル!ど、」
ういうことだ、とでも続けようとした綱吉の言葉は、ハルの笑みにかき消された。
毅然と背筋を伸ばし微笑む彼女は、その毅然とした姿のまま、ゆっくりと頭を垂れた。


「初めまして、ボス。たった今情報部最高責任者に就任しました、三浦ハルです」


ゆっくりと頭を下げて、絶句している彼等にまたハルは微笑んだ。
今度はまるで恋をする女のように、妖艶に、そして艶やかに、優位の先手を打つかのように。

ああ・・・ったく、





恋とは何とも恐ろしい



( しかし・・・しかし君、恋とは罪悪ですよ。解っていますか。 *出典『こころ』/夏目漱石 )