腕の中で、ハルが身じろぐ。 悪いとは思いながらも強く強く抱きしめてしまったせいで、ハルは存分に動くことすらままならない。 けれど込み上げてくる何かに、ハルを離すこともできなかった。 「え、と・・・」 困ったようにハルが俺を見る。 抱きしめてるっていうのに顔が赤くもならないのは、意識をされてないってことなんだろうか。 そんなことを考えて、失笑する。 「ごめん、もう・・・ちょっと・・・」 もうちょっとなんて、いつ離せるか分からないくせに。 勝手に動いた唇に、ハルがゆっくりとうなづいた。 「・・・はい」 抱きしめた体温が、ひどく暖かいことに安堵の息を吐く。 さらりとこぼれる長い黒髪も、折れてしまいそうな華奢な体も、初めてこんなにも多くの場所に触れているけれどいつまでたっても気分は高揚しなかった。 どこまでも堕ちてしまいそうな気持ちを持ち上げるために、必死にハルの体に縋りついていた。 今日自身の所属する門外顧問チームで、初めて次期門外顧問としての任務を請け負った。 その重要性とは比例せず単純な任務で、あっさりと終わったことに逆に拍子抜けしたくらいだ。 正直、これなら綱吉から与えられた任務のほうが難しかった。 問題は、そこじゃなくて。 今だってくっきりと脳裏に焼き付いて離れない。 マフィアに身を置くにはあまりにも純粋すぎる真っ白な存在でありながらも、血が繋がっていたため普通の生活が出来ない少女。 親が何をしているのかを知りながらも、それでも愛していたんだろう。 そのファミリーのボスを殺すとき、目の前へと飛び出してきた少女ごと、撃ち抜いた。 「っ、」 さらに強く抱きしめると、息をのむ声が聞こえる。 抱き締めすぎて、折れてしまいそうだ。 さらりと漆黒の膝まである長い髪、肌は白く、今は縋りついているせいで見えない瞳は、黒く鮮やかで。 あの少女も、同じものを持っていた。 お互い血だらけになりながら、決して俺への恨み事を言うでもなく、俺に視線を向けるでもなく。 ただただ、お互いを慈しみながら、愛しみながら。 その姿は、まるで。 「ハル・・・ハル・・・」 「はい、なんですか?」 ハルの黒いスーツの背を握りしめて、ただただ縋ることしかできなかった。 心臓の音が、一定に鳴り響いて。 生きていることを、俺に示す。 胸に鮮やかな赤の花を咲かせ、お互いを愛しみながら訪れる死に呑み込まれる姿は、まるで。 まる、で。 「(ずるい、なんてのも・・・おかしい、な)」 く、と喉で笑おうとするけれど、その力が入らなくてそれにさらに苦笑する。 ゆるりと、口の端だけを持ち上げて、見えないように笑みを浮かべた。 逆であってほしかったと。 その時思ってしまった。 誰かをかばうという状況ではなく、もういっそのこと彼女の意思で。 きっと優しい彼女だから、一生俺のことを忘れることすら出来ないんだろうと、そう思う。 アイツが悔しがるくらいに、きっと俺のことを思うんだろう。 俺に関連するものを見つけるたびに、いや日々を過ごす度に俺のことを思い出して深く深くその塞がってすらいない傷を自ら抉り。 アイツですら癒せないほどの深い傷を一生抱え続けるんだろう。 ああでも、そんなこと。 きっと俺自身が許せないけど。 |