「また泣いてる」

河原で膝を抱えているハルの頬に流れる涙を、そっと手が拭う。
見上げると彼がいて、ハルはふにゃりと顔を崩した。


「また、見られちゃいました。一人で泣いてると、いつも見つけてくれますね」
弱弱しく笑うハルの頬をぷにっとつまんで引っ張った。

「無理しなくていいよ、ハル」
「はふ・・・」

その言葉にまたハルはくしゃりと顔を歪ませて、しゃくりあげた。
嗚咽を漏らすハルに思わず苦笑した。

女の子が頬つねられたまま泣くなよ。


「ハルはいつも泣いてばっかりだよな」
「うぅ・・・泣いてるハルを見つけるのが悪いんです・・・」

ハルのせいじゃありません。とボロボロと泣きながらも強がって舌を出すハルに笑う。
きっとアイツはこんなハルの姿を知らないんだろうと思うと、優越感が心に芽生える。



「で、どうしたの?」
十中八九アイツのことなんだろうけど。


「・・・昨日。雨だったんです」
「うん?・・・ああ、そういえば・・・」

山本が野球できないなーなんて寂しそうに言ってたな。
帰りにげた箱に居たハルに傘に入れてもらって・・・。


あれ?

「・・・ひょっとして」
帰りかけじゃなくて、呆然として帰れなかった?
「ツナさん、傘を忘れてて、京子ちゃんにいれてもらってたんです」


アイツの中でハルのイメージはいつも笑ってるのかもしれない。
けれど、本当はそんなことなくて、ちょっとしたことで泣いてしまう繊細な女の子だ。

「ツナさん、嬉しそうで・・・」
ぎゅうっとハルは自分の膝を抱き締めた。


ハルはいつも全力で恋をしているから、少しのことでたくさん泣いている。
いつもこれだけ泣いて大丈夫なのかなってくらい泣いて、明日は笑う。

アイツは、辛そうに笑うハルを知らないんだろう。


中途半端な優しさだけを、与えているから。
振り払われた手をぎゅっと握りしめて、もの凄く悲しそうな顔をして、それから笑顔を作ってるなんて、アイツは知らない。



「ハル、辛くなくなる方法を教えてあげようか?」
「へ?」
きょとんとしたハルに、にっこりと笑った。


「俺を好きになったら、辛くなんてなくなるよ」

「・・・・・・」
ハルが押し黙る。


その言葉がまだ頭に届かなくて、ゆっくりと理解していって、それからどういう意味だと困惑して、どうやって断ったらいいのかを探し始めたところで、おどけたように笑ってみせた。



「なんてね」

安心したように笑うハルに、胸が痛んだのは内緒。





僕達は子どもだった



( どうやったら傷つかないかを探して、傷つかない前に自分を護っていた )