「ハルはさ、綱吉が好きなんだろ?」
「はい、そうですよ?」

突然の質問に、ハルは当然のように答える。
そこには微塵も何でそんなこととかっていう動揺はなくて、ハルはそれを誇っているようだった。
・・・くそ。


「でも、綱吉は京子が好きなんだろ?」
また突然言うと、ハルが少しだけ痛そうな顔をして、へらりと笑う。

駄目だ、こんなんじゃ・・・ハルは全然揺らがない。
綱吉の言葉だったら、ハルを動揺させるくらいものすごく簡単なのに。

「・・・はい」
困ったようにハルが笑う。


オレンジ色が入り込む教室で遠くに聞こえる運動部の声を聞きながら、二人で教室の席一つ分離れた場所に座っていた。
他には誰もいない。

たとえ外に聞こえるほど大きな声を出したとしても、ひときわ大きな野球部の声がかき消してくれるだろう。
多分。

だから少し、ハルを揺さぶることができないかと思った。



「・・・じゃあさ、京子がいなかったら良かったのにって思ったことないの?」


何て酷い質問なんだろう。

ハルは綱吉が京子を好きだということを分かっていても、それでも京子とはあんなに仲が良くて。
月に一度は感謝デーなんてものを作って一緒にケーキを食べに行くほど仲が良いのに。

傷つくかな、と思った。

だけど、ハルはまた少しだけ痛そうな顔をして、へらりと笑う。
困ったように笑って、どう答えたらいいのかと子どもに対応するように。

・・・あーあ、やっぱり駄目だった。


「京子ちゃんがいなかったからって、ツナさんがハルを好きになってくれるなんてこと、ないじゃないですか」

今度は悲しそうに眉を下げて唇を噛んで、少しだけ嘘をついた。
多分きっと、もしかしたら京子がいなかったら綱吉は自分を好きになってくれたんじゃないかと、そう思ったことがある。

わかるよ、それ。

「だから、無駄なんです」
そんなこと考えたって。


ハルはそういうけど、俺はそんな風には思わない。
綱吉がハルの気持ちに気づかないでハルを傷つけるたびに、思うんだ。

綱吉がいなかったら良かったのに。
そしたらきっと、死ぬ気モードで助けられたっていうハルは綱吉に恋をすることはなくて、あんなに強く人を愛することはなくて。

ハルが誰か別の人を好きになったとしても、きっと振り向かせられる。


「・・・あいつが、なぁ」

いなかったら良かったのに、なんて不穏なことを考える(別に殺したいとかそういうわけじゃないけど)。

「はひ?どうしたんですか?」
きょとんとハルが首を傾げる。


「んーん、何でもない」


でも、何でだろう。


綱吉の存在しない世界のハルをイメージしたら、何故だか好きになれなかった。





ハ ナ ミ ズ キ



( きみとすきなひとが、ひゃくねんつづきますように )