「ハルっ!」


急いで飛び込めば頭に包帯を巻いているものの穏やかに眠るハルと、そのベットの近くでイスに腰掛けて涙を流す京子。
見たところ点滴があるわけでも血の匂いがするわけでもなく、胸を上下させて眠るハルに綱吉は安心した。

うん、大丈夫、だ。

超直感は何かがあると知らせてくれるから便利だけど、本当に何かがあるとしか知らせてくれないから時々不便だよな、と思う。



「・・・ツナ君」
涙を流していた京子が涙をぬぐって顔をあげた。その顔は真っ青だった。

「京子ちゃん、ハルは・・・?」
「足を捻ってるのと、それと頭打ったから気絶してるだけって。シャマル先生はすぐに目覚めるから大丈夫って言ってたよ」
「そっか」

それを聞いて一安心した。シャマルは行動を見てる限りあんまり信用できる人物じゃないけど、信頼はできる。
特に相手が女の子とあっては手を抜いたりなんてしないだろう。


「ツナ君、ちょっと・・・いいかな」

いつの間にやら立ち上がっていた京子が扉を指さしていた。
何だろう。

「うん・・・」

そう思いながら綱吉は促されるままに外に歩き出した。




「あのね、ツナ君・・・今回のこと、本当にごめんなさい。私が、もっと注意してたら良かったのに」
「京子ちゃんのせいじゃないよ!事故だったんだから」
でもごめんね・・・と弱弱しく頷く京子はまだ何かあるようで視線を彷徨わせていた。

「・・・ツナ君」
「ん?」
恐る恐る京子が口を開いた。
超直感がひときわ警告音を鳴り響かせた。


「ツナ君は目の前で私が・・・誰かが落ちてたら、どうする?」


「え?」


「・・・ううん、ツナ君じゃダメ。例えば、そう花とか!花はもし目の前で誰かが落ちそうになったら、どうすると思う?」
突然の質問に綱吉は眼を見開いた。

京子の親友である花がたとえば、京子が目の前で階段から落ちそうになったら。

「突然のことだよね?反応しきれないよね?助けようと思っても躊躇うよね?それが普通だよね?」
「ちょ、きょ、京子ちゃん落ち着いてっ!」

「きっと私だって反応できない!躊躇っちゃう!だって助けようと思ったら私は一緒に落ちて怪我をしちゃうんだもの!助けたいってどれだけ思っても、人って自分が怪我すると思うと躊躇っちゃうの」


それは人間として当然のことなんだろう。
人間、というか、本当に心の底から助けたいと思っていても無意識下にある自己防衛がそれを止める。

特に力のない京子やハルなら尚更。


「え、えっと・・・京子ちゃん?それが」

どうしたの?という言葉は涙を流しながら言う京子の言葉にかき消された。


「ハルちゃんは、躊躇わなかったの!全部見えたわけじゃないけど、躊躇わずに私を助けたの!・・・落ちたら、自分の身を守ろうとするよね?頭を抱えるなりなんなり、するよね?でも、ハルちゃんはしなかった・・・ハルちゃんは、笑ってた!助けることが、全部みたいに」


見上げる京子の顔は、恐怖と不安と悲しみでいっぱいだった。



「お願い、ツナ君・・・!ハルちゃんを助けてっ!!」

医務室の前の廊下で、京子の叫び声が響いた。





歪みは減速を知らないまま



( 走り出した、その加速してゆくスピードはもう止まらない。止められない。止めることはできない )