粗方誘導し終わった後、ハルがじっとボスの方を見ているのに気づいた。
どうしてだろう、酷く・・・怖かった。


「ハル?」
「・・・どうしました?凪ちゃん」

ハルは、私のことを凪と呼ぶ。
骸様に貰った名前も大切だけど、凪だったころも大切なんだって、そう笑って言っていて。

だから、ハルだけは凪と呼んでほしいと思った。

「ううん。何でもないわ」

本当なら、ハルを連れて私たちも避難するべきだと思う。
だけど、ハルはしないと思った。
ボスの戦いが終わるまで、ここを離れたりなんてしないと思った。



「ボス、大丈夫かしら・・・」
思わずポツリと呟いた。
ボスや骸様達があんな人たちに負けるはずなんてないけど、何が起こるかわからないし。

「大丈夫ですよ、ツナさんは」

私のつぶやきに、ハルが笑う。
それは安心するもののはずなのに、何故だか冷や汗が出てくるほど心臓が跳ねた。

どうして?


「うん、大丈夫・・・」

そう言うと、ハルはにっこりと笑って、またボスに視線を戻した。
心臓が痛いほどなる。
何かがいけないと警鐘を鳴らした。

ボスや骸様に何かがあるというの?
でも、皆相手が雑魚だからって油断したりなんてしない。

敵が増えてるみたいだけど、誰ひとりこっちには来ないもの。
勿論、幻覚をかけてるからっていうのもあるけど。

毎回不安で仕方がないけど、でも私はボスと骸様を信じてる。

だから大丈夫。



私は骸様の方を見ていた。

だから、ハルが何を見ていたかなんて気付かなかった。

私は幻覚でハルの姿を隠すのに必死だった。

だららその幻覚の場所だけは、敵に見えなかった。

その声と、音と、叫び声が聞こえるまで、私は気づかなかった。

気付かなきゃ、いけなかったのに。



「ツナさん!」



ハルの声が響いた。


それは隣よりも遠い、ボスのいる場所で。

振り返ったときには遅くて、走っても遅くて。

渇いた音と、目を見開いたボスと、驚いて振り返って軽く傷を受けるみんなの姿が見えて。



「っハル!!」



ボスの叫び声が響いた。





予感



( 気づかなくちゃいけなかった、絶対に )