ザワリと心臓を何かが撫でるように走って、思わず体を震わせた。

超直感が告げる。
何か、俺にとってすごく嫌なことが起こるって。
嫌なことは、ここには沢山ありすぎて、どれだろうと考えようとした、瞬間だった。



「ツナさん!」


ハルの叫び声が聞こえて、ドンと軽く何かが俺にぶつかって、乾いた音がして。


「ハルっ!!」


ハルが、うたれた。
一瞬、みんなの気が緩んで傷を負って、そうしてまた敵に振りかえる。

いつの間にかクロームが俺の立っていた位置にいて、敵と戦ってくれていた。


「ハル!ハル!」

揺さぶらないように気を付けてハルを抱き起した。
真白なドレスは赤く染まっていて、冷や汗が流れた。

「っハル!」

嫌だ。ハルが死ぬなんていやだっ!

気が酷く動転していて、俺はハルの抱き上げる手を強くすることしかできなくて。
どうしようもないほどの焦りが一気に押し寄せてきそうになって、涙が出そうになって。


そんな俺を、一気に冷静にさせたのは、ハルだった。


「大丈夫ですか?ツナさん」

それは、静かな・・・いつもの明るいハルの声で。

ドクリと心臓が跳ねた。


一気に足先から頭の先まで寒気が通っていって、体を強く震わせた。

何だ、何が起こってる?

おかしい・・・すごく、おかしいのに・・・なにも言えない。



「どこも、怪我してませんか?」



抱き締めたハルの体からは血が流れているのに。
どうして怪我をしたハルはいつものように笑ってるんだっ!?

痛いはずなのに、眉も寄せない。汗だって流れてない、痛そうな顔だってしてない。
ただ、いつもの笑顔で・・・多分きっと、京子ちゃんをかばった時みたいな笑顔で、笑ってる。


「ハ、ル・・・」
「良かった。大丈夫ですね」
ふふっと軽やかにハルが笑う。


堪えていなければ悲鳴を上げてしまいそうだった。
まっすぐに向かう視線に、ただ震えを抑えているしかできなくて。


血の匂いが充満して、ハルの顔がどんどんと青ざめていくのに・・・きっと、俺でも顔に出してしまいそうな痛みが襲ってるはずなのに。
ハルは笑顔で、いつもとなんら変わらない笑顔で。



「っ・・・!」


ハルに、俺は恐怖した。





彼女が怖い



( どうして彼女はこんな笑顔で笑っていられる? )