人を殺せる。 それは自らを殺すより、どれだけ重く、辛く、そして強い意志なのだろうか。 綱吉が零した答えに反論できるものはいなかった。 「俺のために死ねるなんてものじゃない・・・」 いつから、壊れてしまったんだろう。 「俺の・・・っ、おれのせいだっ!!」 堪え切れなくて。 ついに崩れ落ちた綱吉の背に、リボーンはそっと手をあてた。 俯いて、床に手をついて、きっとこの姿を見て彼がボンゴレ十代目だと思う人物なんていやしない。 それほどに弱弱しく痛々しくて、本来ならドン・ボンゴレには許されない姿。 けれど、今この空間だけは、ボンゴレ十代目は、たった14歳の少年のようであることが許された。 「・・・それは、ハルがお前を好きだから、か?」 ボロボロでくしゃくしゃの顔がリボーンに向いて、またさらに涙が零れた。 泣きたい気持ちは、嫌というほどわかった。 「おれ、ハルの気持ちを侮ってたんだ。恋愛で好きなんだろうってあの時から気づいてた」 ぎゅうっと血管の浮かぶ白い手が床のカーペットを握り締めた。 「でも、気づかないふりしてた。・・・傷つけるのが怖くて」 それがきっと14歳の綱吉なりの精一杯の優しさで、はっきり言ってあげるほうが優しさなんて責め立てることはできなくて。 あの時好きにはなれなかったけれど、別の意味で好きだった彼女を傷つけたくなかった。 「いつか、自然と諦めてくれるんじゃないかって・・・俺、ハルの気持ち、そんな風に思ってて」 カーペットに濃いシミができて、消えて、またできて。 頬を伝って流れる涙は、涸れるということを知らないようだった。 「ハルは、俺が思ってた以上に、俺のことを好きだったんだ。昔の俺が振り向かないってわかってて、それでも好きで」 いつかその想いは時を経て。 独占欲もやきもちも、そんな次元を通り越して、綱吉を好きでいるようになった。 それは、母の愛のようだった。 「・・・でも、ハルは俺の母さんじゃないんだ」 同じ年の、確かにもう女性と呼べる年だけど、そんな包容力を持てるほどの痛みも経験もしてきてなくて。 「だから、そんなハルが俺のことを母親のように見てるのには、絶対に限界がくる。本当の・・・抱きしめたら顔を真赤にするような、そんなハルの心が悲鳴をあげるんだ」 だって、母親は母親である前に、誰かの前では一人の女性だから。 その誰かのいない人が、母親になんてなれないんだよ。 きっとそれじゃ、心が悲鳴をあげる。 「ハルを、元に戻したいんだ・・・。このまま外にいたら、いつハルが誰かを殺したり、誰かを庇ったりすることになるかもしれない。そうしないためにも、ハルを一時隔離したい」 今度は、誰も反対するものはいなかった。 「無理なんだよ。だって、俺はハルの子どもじゃないし、ハルは俺の母さんでもない。・・・俺は、ハルと対等がいいんだ」 本当に、いつから壊れてしまったんだろう。 その崩壊に気づくことすらできなくて、今やっと気づいた。 だから、取り戻さなくちゃ。 空っぽになってしまった君の、本当の君を。 |