結局のところ、どうすることもできないのに。

たとえば、事実に辿りついたとして。
何ができるだろう、何をできるだろう。


今までだって、何もできなかったのに。







はぁ、と吸い込んだ煙を吐き出す。
重苦しく肺に沈む空気と共に吐き出せど、その重みは変わらず。

結局のところ、まだその重みは胸の中に沈んだままだ。



「おーい、隼人。こっちは終わったぜ」
「おう」

あたり一面血の中で交わすには軽い会話だが、もう慣れてしまった光景だ。
歩いて近寄ってくる武の足元からは、ところどころ嫌な音も聞こえる。

「久々の見せしめだったよなぁ・・・」
「調子づいてきやがったからな」

もう一度煙を吸うと、深く溜息とともに吐く。
何度吐き出しても胸の奥はすっきりしなかった。



「あのさ、」

躊躇うように、切りだされた言葉に、思わず眉に皺を寄せる。
その内容はすでにわかっていた。

「・・・どうしようも、ねぇだろ」
「それは、わかってるけど」

どうしようもない。
ただ、この一言に尽きていた。

どうすることもできない。
それが事実だったとしても、どうしようもできない。

その意味を、自分の身をもって知っていた。


「例え、どうにかしようとしたって・・・どうしようもならねぇんだよ」
「っ、そう、だけど」
「あいつ、のことが事実だとしても、それでも・・・何が出来るんだよ、俺らに」



無力だ。

昔よりも力がついたと思っていた。
彼を助ける力を、仲間を助けられる力を得たと思っていた。

なのに、こうして自分の無力さを叩きつけられる。


何も、出来やしない。



「事実だったとしても!俺たちは、それを口にすることはあっちゃならねぇんだよ。・・・あの方のためにも、あいつのためにも・・・」
「・・・」
そうだ、言ってはいけない。
言ったところで、何も。
いや、むしろ最悪の事態にしか発展しないのだから。
「たとえば俺らがそれを言葉にした場合、あいつは一生認められることもない、針のむしろに叩きつけられる。・・・それに、あの人も、認めてもらうことが出来ない立場になる」
「・・・隼人」
「俺は身をもってそれを知ってんだよ・・・。だから、何もできねぇ・・・する、ことはできねぇ」
煙草を落として、靴底で踏みつける。


結局、どれだけ力をつけようと、どれだけ強くなろうと。
肝心な時ばっかり何もできない。

何も足りない。
何もかもが、足りない。


「ちっ、油売ってる場合じゃなかったぜ。行くぞ」
「ん。わかったのな」

パチン、とジッポの蓋をはね上げて、新たに銜えた煙草に火をつける。



何もできない。
何も、できることなんてない。





「十代目、任務完了の報告に参りました」
「お疲れ様、隼人、武」


たった、一つも。