意思なんて求められたことなど無かった。 愛なんて与えられたこともなかった。 ただ、お人形さんのように微笑んで、そうしていつか取引のために売られ、買人を愛したフリをして一生を過ごす。 それだけが、私に与えられた世界だった。 「こんにちは、ジュリエラ」 「まぁ!ドン・ボンゴレ。ようこそいらっしゃいました」 にこりと、優しい頬笑みを浮かべやってきた彼へと、私は嬉しさを満面に浮かべる。 勿論これは本心のつもり。 彼を連れてきたメイドがいることもあるけれど、彼は大切な私の共犯者ですもの。 「悪いけど、二人にしてくれるかな?」 そう彼がメイドに微笑めば、彼女は頭を下げ去っていく。 これで当分は誰もここへは近づかないだろう。 父も母も、あえて間に入って仲を崩そうと考えたりはしないことはもうわかっているから。 「ところで、どう?上手く出来てる?」 ふわり、と笑うその笑顔は優しく。 思わずそれに笑みを返しながら、私は答える。 「ええ。食事も部屋に運んでもらっているの。体調の悪いフリをして外には出ないようにしているわ」 「君は演技が上手だからね」 「あら、それでも顔に出やすいってことはわかってるわ」 くすくすと笑いあう。 そこに恋慕なんてものはないけれど、それを抱いたのは“彼”以外いないけれど。 それでも、彼は心地よい人物だと、そう思う。 「もうすぐだから」 「・・・ええ」 人形で、いることに小さなころは不満も違和感も、何も持っていなかった。 そのために生きて、そのために死んでいくことに、何の疑問も持たなかった。 そんな私に、命をくれたのは。 愛しい彼。 少し不器用で、ドジだけど、心優しい純粋な人。 父も母も愛することが出来なかった私を愛してくれて、そうして私が愛した人。 傍にいることは、本当なら許されなかった人。 「本当にありがとう、ツナヨシ。貴方には、感謝してもしきれないわ」 もう一人、優しい人。 私のこころを見抜いて、協力を申し出てくれたツナヨシ。 こんなに優しい人がマフィアのボスだなんて(しかも、あのマフィア界のトップに立つボンゴレのボスだなんて)信じられないけれど。 とても心の優しい人。 マフィアのボスだもの。 優しいだけではないのだろうけれど。 それでも、優しい心を失うことがなかったからこそ、きっと彼にはたくさんの人がついてきているのね。 「いいんだよ。気にしないでって言っただろうジュリエラ。俺が我慢できなかっただけなんだ」 そう微笑むツナヨシの顔は、どこか薄暗い。 薄暗い? あら、私、どうしてそんなこと思ったのかしら。 「ジュリエラ?」 けれど、そんな疑問はもう一度ツナヨシに問いかけられた瞬間に霧散する。 「いいえ、なんでもないわ、ツナヨシ。・・・本当に、ありがとう」 「・・・どういたしまして」 にっこりと、ツナヨシが微笑む。 優しい、優しい笑みだ。 でも、どこかその笑みが、少しだけ恐ろしいわ、なんて。 (どうしてそんなこと思ったのかしら) |