純粋に愛されるには足りなかったたった一つ。 それは、母という存在だということになっている彼女、とも良く似た。 そうして、母である彼女と同じ。 漆黒の瞳。 「ザンザスさん!」 少しだけわざと無邪気そうな声を出してやってきてくれた彼へと走り寄る。 こうして多少無邪気なところも出しておかないと不穏的なものも感じられてしまうので、かなり面倒だ。 少しも遠慮した様子もなくずかずかと入ってきたのは、ヴァリアーのザンザスさんで。 彼へと走り寄って笑みを浮かべた。 「・・・それ、やめろ」 「はい?」 彼の言葉の指す意味を理解しながらも、あえてわからないフリをしてみる。 こういうところは俺、あの人に似てるなぁと少しだけ思ってしまう。 まぁ、あの人とは明確なほどに血のつながりがあるから仕方がないことだけれど。 「その顔だ。胡散臭ぇ顔しやがって」 「そうですか?純粋に慕う美少年の頬笑みですよ?」 「・・・自分で言うな」 べしり、と軽く窘めるように叩くザンザスさんに、少しだけ笑みをかえる。 勿論、周りに見られていないことを確認して。 「ザンザスさんってば、酷いなぁ。この笑顔、結構人気なんですよ?」 「どこがだ」 にやり、と微笑んだ顔は、彼の父親がボスになってから浮かべるようになった笑みに良く似ていた。 (この歳のころは、あいつじゃ浮かべられなかった笑みだがな・・・) おどけたようにも、純粋にも笑うことのない少年と、あの時の彼を重ねつつ、そう思う。 くつくつと咽喉で笑う少年は、また先ほどと同じ笑みを浮かべて言った。 「だって、こうやって笑ってたら、目なんて見えないでしょう?」 成程、確かに。 目を細め笑う少年の睫毛が長いせいなのか、茶色に被われ満足にその黒い瞳を見ることもできない。 視線が合ったと感じることもないだろう。 「こうやって笑うと、皆ほっとしたようにするんです」 その笑みのままく、っと自嘲のような笑い声をもらす少年に、ザンザスは眉を寄せた。 神童だ、だのなんだのと言われているが、結局のところ、そう成らざるを得なかっただけだ。 「・・・その笑い方はやめとけ」 「なんで、ですか?」 「・・・気持ち悪い」 ぽつり、と零せば少年はどこかあどけなく、ぽかんと黒い瞳を見開いた。 黒い瞳がよく見えるそのあどけない表情にどこか満足している自分がいた。 「・・・あは、ははは・・・ザンザスさん、気持ち悪いって酷いですね」 「気持ち悪いものを気持ち悪いと言って何が悪い」 それに、第一。 「目の見えない人間となんか、対峙してられっか」 そんな人間、何を思っているやら。 きっと、黒い瞳が見えないことに安堵する奴らには、その奥底の叫び声など聞こえないのだろう。 多分、ザンザスさんは気づいているんだろう。 そう吉治は思う。 俺の出生に関しても、そうなってしまった理由も、全て。 だけど、誰も何も言うことはできない。 所詮超直感だってただの勘でしかないし。 誰もが目をそむけ続けてきた遺伝子の情報を調べてしまえば、誰が一番大変か。 皆わかっている。 だから、求めない。 求め、られない。 「俺、ザンザスさんのこと、大好きですよ」 「―――果てしなく、迷惑だ」 至極嫌そうに言ったザンザスに、吉治は嬉しそうに笑った。 |