軽快、というにはどこか重さを伴ったノック音が響いて、綱吉はふと顔をあげる。 返事を聞くこともなく開かれた扉から現れたリボーンは、まるで責めるような目で綱吉を睨んだ。 それに綱吉が困ったように苦笑して、いいからと言葉を促した。 「で、報告は?」 「・・・ちっ・・・。京子、ハル共にバレてねぇ。こっちの負傷者はなし」 不愉快です、というのを全面に押し出しながら舌打ちをしたリボーンが、手元の書類に目を落として言う。 リボーンの言葉に綱吉は悼むように目を細めた。 「そう。それで、犯人は?」 「マフィアであることは確実だ・・・」 ふと、言葉が途切れる。 「・・・・・・どういうこと?」 歯切れ悪く告げたリボーンに、綱吉は嫌悪を示すように眉をしかめた。 無論、犯人がマフィアであることに対してではなく。 「自殺した」 ドアに背をもたれながら端的に告げたリボーンに、綱吉はピクリと肩を揺らす。 「・・・そう」 じっと瞳を閉じて考えるように手を額に当てながら俯く綱吉を一瞥して、リボーンはさっと書類に目を走らせた。 別にこの事態は・・・はっきり言えばよくあったことだ。 東洋人である綱吉をよく思わないマフィアなどはいてくさるほどいた。 京子やハルとよく一緒に居た事は既に周知の事実と言ってもいい。 監禁でもして生活してないかぎり、はっきりいって情報を漏らさないなど不可能だ。 ボンゴレを動かせるとは思わなくても、何かしらの取引に有効な材料として使えるかもしれないと思われても、おかしくはない。 護衛をつけていれば、尚更。 「仕込んでいた爆発で頭をボン、だ。仕込んでいたのか仕込まれていたのか・・・遺体から身元が発見できそうなものは一切無かった」 今もまだ調べているというリボーンに、綱吉はそれより、と口を開く。 「何人だったの?」 「・・・イタリア人だ」 ふぅん、と言ってまた黙り込んだ綱吉に、リボーンが眉を寄せる。 「つけていた護衛によると、自分たちのドンに病的なほどに心酔していた発言が多々見受けられたらしい」 以上だ、と締めくくるリボーンの言葉に頷いて、綱吉はじっとリボーンを見つめた。 丁度月明かりが差し込まないせいか、顔はよく見えない。 その中で目だけが反射した光を飽和して光る。 「これでいいだろ?」 「・・・ああ」 ゆらりと揺れる光を見つめながら、リボーンは頷く。 もうこれに関しては逆らう術を持っていないのだから。 リボーンの返答に満足したように綱吉はそっと口端を綻ばせる。 勿論、念には念を入れることは忘れないけれど、それはきっと優秀な右腕やら目の前の少年がこなしてくれるだろう。 「ああ。『了解、ボス』だそうだ」 「・・・はは。ザンザスらしい嫌味だね・・・うん、そっか・・・」 ふっと体を抜いて、背もたれに頭をのせる。 シャンデリアの吊るされた天井をじっと見つめて、綱吉は眉を寄せながら口元を緩めた。 「リボーン」 普段よりも若干低い声で少年の名前を呼ぶ。 ピクリと肩を揺らすリボーンに一瞥もくれることなく、綱吉はそっと俯いた。 「“彼ら”に伝えて・・・作戦を、始める」 肘掛に手を添えると、ぐっと力を込めて立ち上がる。 それからゆるゆるとリボーンへ視線を向けると、綱吉はいつものように微笑んだ。 少しだけ、歪んでいたけれど。 「ボンゴレ本部を、日本に移転する」 ゆったりとした笑みを浮かべたまま、そっと人差し指を唇にあててまるで内緒というように少しだけ首をかしげた。 「誰にも漏れないようにね?」 背筋を走るような悪寒に震えながらも、リボーンも負けじと口の片端をにやりと吊り上げる。 決して二度としないだろうと自身ですらも思いながら、そっと綱吉に頭を垂れた。 それから、そっと静かな月明かりしか差し込まない部屋で口を開いた。 |