「んー、いいお天気です!」 目覚めはスッキリ、空は晴れやか! ポカポカと暖かい陽気に包まれながら、ハルはぐっと背伸びをして息を吐いた。 まだ出かけるまでには時間があるからと、昨日買ったばかりの便箋のビニールを丁寧に開いてから、封筒とセットで取り出した。 淡い桃色に右下に赤い花をあしらったデザインは、思わず即買いしてしまったほどの愛らしさだ。 「えーっと、前略、お元気ですか・・・って、定型にもほどがありますね」 思わずクスクスと笑いながら、そのあとに私は元気ですと続ける。 「伸ばし続けていた髪は、ついに膝に到達しました。シャンプーやリンスの減りが早くて、とても大変です」 響く時計の秒針の音と、開いた窓から入ってくる鳥の声を聞きながら、カリカリとペンを滑らせる。 昔の教科書のように思わず色とりどりにしてしまうのは、きっともう癖なんだろう。 「昨日は京子ちゃんと一緒にケーキを食べに行きました。丁度食べ終わったころに爆発の音が聞こえて、思わずデンジャラスなあの人を思い出しました」 ピタリと、思わずペンを止める。 自分で書いたことなのに・・・少しだけ唇を噛んで眉を寄せた。 「おかしいですよね・・・もう、皆ここにはいないのに」 音だって、聞きなれたあの音じゃなくって、もっと弾けるような音だった。 何してるの!なんてツナさんの叫び声も、元気なのななんて山本さんののんびりとした声も、聞こえるはずないのに。 「貴方がここからいなくなって、もう3回年をこえました」 指折り数えた。 毎日もしかしたら会えるかもしれないと期待した。 それは、今もやめられない癖で。 「ハルは大学3年生になりました。単位だって順調にとれてるし、仲の良い先生だっているんですよ」 小さな音がして、染みの中の文字がゆがむ。 文字が震えていびつに続いた。 「ハルは・・・ハル、は・・・」 少し乱暴に涙を手の甲で拭って、ぎゅっと震えないようにペンを強く掴んだ。 「ハルは、幸せです・・・お友達もいて、楽しく大学を過ごして、遊びにだって行って・・・・・・」 暖かい春の風が入り込んで、目に溜まっていた水をそっと頬へ流す。 まだ、ダメだ。 「だから、心配しないでください・・・ハルは、ハルは逢いたいなんて、思ってません・・・。大好きな、神様へ」 三つに折りたたんで、封筒にねじ込んだ。 宛先も宛名も書けない封筒に、裏にそっとハルよりとだけ短く書いてクローゼットの中の箱にしまう。 3年間、一度も宛先も宛名も書かれることのなかった封筒。 届けようがないのに。 「・・・・・・嘘、です」 色とりどりの、きっともう1000通を超しただろう手紙を見つめる。 毎日毎日、宛先も知らないのに、宛名も書けないのにずっと書き続けてきた手紙。 逢いたいなんて、一度も書かなかった手紙。 そんなの、文字に出来ない。 文字じゃおさまりきらない。 「あ、いたい・・・逢いたいです、ツナさん・・・っ!逢いたい、です・・・」 まだ忘れられない、忘れられるわけない。 多分信じてくれなかっただろうけど、本当に本気の恋だった。 どんな姿を見たって減ることのない、いろんな姿を見るたびに想いの募る恋だった。 「まだ、大好きですっ・・・!」 逢いたい逢いたい逢いたい! 傍に行きたい、仕方がないなって頭を撫でてほしい、優しく笑ってほしい、怒ってほしい、傍にいてほしい。 「大好きです・・・大好き、なんです・・・」 離れれば、離れるほどに想いが募って、文字に書き出すだけじゃ到底たりなくて。 溢れて壊れてしまいそう。 「大好きです・・・」 |