「お兄ちゃんっ!」 毅然と笑っていてもやっぱり怖かったのだろう、目の端に涙を浮かべたまま京子が了平に駆け寄って飛びつく。 そんな京子を懐かしそうに見つめながら、了平が抱き締める。 「もう極限に大丈夫だぞ、京子」 ハルもな、とにっかりと笑ってくれるけれど、ハルの頭の中を急激に別のものが占め始める。 イタリアにいるはずの了平がここにいる。 ・・・綱吉と、一緒にイタリアにいるはずの了平が。 「了平さんっ!!」 気がつけば叫んでいた。 「ど、どうした・・・?」 ハルの剣幕に少しだけ体を引いて、了平が答える。 吃驚したような顔を気にすることもなく、了平が身構える隙を与えないように急いで近づいた。 「ツナさんはっ!ツナ・・・さんは・・・っ!」 一気に頭を占拠したその思考は、ぎゅうぎゅうと頭の中に溢れかえって逆にそれくらいしか言葉にできなかった。 その名前に、はっとしたように京子がハルを見る。 「・・・ハル、ちゃん・・・」 それから自分を抱きしめてくれていた了平を不安そうに見上げた。 ぎゅっと、了平の眉が寄る。 了平らしくない表情に、ふいに不安が押し寄せる。 「何か・・・あったんですか・・・?」 心臓の音が響いて、さぁっと頭から血の気が引いていく。 冷たくなる感覚をぎゅっと唇を噛んで堪えながら、了平の答えを待った。 「・・・外は極限危険だ・・・」 「了平さんっ!」 ハルから視線をそらして呟いた了平に焦りから思わず叫ぶ。 そんなハルをあたりを警戒するように見渡してから、ゆっくりと了平が視線を合わせた。 まるで、覚悟はできているかというように。 「・・・綱吉は、」 深く深く刻まれた眉の皺がさらに深く深く刻まれる。 痕になってしまいそうだ、と別の思考がどこからか浮かぶ。 今ここから逃げ出したい衝動に駆られた。 「ツナ、さんは・・・?」 心臓の音が大きい、ひやりと頭のてっぺんが冷たくて足が心許ない。 息が苦しい、胸がつっかえて、呼吸の音が大きく響いて吐く息が冷たく体の中を通る。 米神を、冷たい何かが滑り落ちていく。 了平らしくない表情を浮かべる了平に、募るのは不安だけだった。 「・・・おにい、ちゃん・・・?」 泣きそうな顔で見上げてくる京子を見て、それからじっとただ了平を見上げるハルを見る。 その表情は涙さえも許さないほどにツナのことが詰め込まれて少しの隙もない。 言ってもいいのか、そうあまり良いと評価されることのない頭のなかで考える。 個人としてなら、言いたくなんて無い。 「綱吉は、」 けれど、もう自分はボンゴレだ。 相撲大会なんてそんな見え見えの嘘ではなく、その世界の意味を理解している。 もう、純粋に突っ走るだけのことはできない。 逃さぬように目を開き、ぎゅっと真っ白になるほどに手を握り呼吸すら短く吐き出すハルを見下ろした。 許してくれ、と頭の中で繰り返す。 今ハルを立たせているのは綱吉が今どういう状況なのか、どこにいるのかを聞きたいその一つに限るのだと分かっていて。 指先でつつけば崩れてしまいそうなハルを今から、利用してしまうのだ。 自分が、ボンゴレだから。 すまない、と口の中で呟いて、了平は意を決して口を開いた。 「――――綱吉は、死んだ」 |