ゆるりと、世界が白く染まる。


意識が覚めたのだと、そう理解させるように手を暖かい感触が包んでいた。

京子・・・ちゃんでしょうか。
でも触れる手は女の子の手よりも固くて、なんだか少し骨っぽい。

了平、さん?
でもそれにしては手が小さいような気がして、ゆるりとハルは瞳を開いた。


「大丈夫・・・?」

声をかけられたその瞬間に、パチンと弾けるように目を見開いた。

じんっと鼻を痛みがかけぬけて、それが目に到達したと思った瞬間にじわりじわりと何かが押し寄せる。
目の表面が緩んで、その姿が見えなくなって、ポタリという音と同時にまた現れて。

そんな、ハルを安心させるように繋いでいた手の一本一本の指の間に、そっと指を差し入れて、手のひらに体温が伝わるように握った。

堪え切れないようにハルの唇が震えて、必至で音を出そうとしているのが見えて。
ハルの手助けをするように、そっと頬を撫でた。



「・・・つ・・・な・・・さん・・・?」



音にすれば、それはどんどんと色濃く映ってきて。
そんなハルを肯定するように、にっこりと優しく笑った。

「そうだよ、ハル」

忘れるわけもない、間違えるはずもない。
記憶よりもずいぶんと成長した沢田綱吉、がそこにいた。

「夢・・・じゃ、ないです、よね・・・?ほん、とうに・・・っ」

指の間を通る綱吉の指の暖かさや、頬を何度も撫でてくれる手の暖かさがじわりじわりと伝わってくる。
昔無理矢理繋いでいた時の手よりもずいぶんとガサガサになって、骨っぽくて表面が固い。

でも暖かくて、優しい。

指の間を通って手の甲に添えられている指にこたえるように、ハルもぎゅっと綱吉の手を握り締めた。

「本物だよ。・・・ごめんね、ハル。心配かけて」

また、目の表面が緩んでじわりじわりと綱吉の姿が歪んだかと思うと、頬を涙が流れてまた綱吉の姿が現れる。
何度歪んでも、綱吉は消えない。


「しんだ、って言われて・・・ハル、信じられなくて・・・」
「うん」
「絶対嘘だって、りょうへ、いさんのこと・・・疑って・・・」

ああでも、信じなくてよかった。
嘘だってずっと信じなくて、本当によかった。

「ハルは、はる・・・は、」

唇が震えて上手く音にならない。

安心させるように綱吉が強く手を握ってくれたり、頭を撫でてくれたりするけれど、上手く言葉にできなくて。
ああでも、伝わる体温が暖かい。
髪を指に絡ませる感覚が嬉しい。

信じなくてよかった、嘘だってずっと想い続けてよかった。
だって、だって。


「ぜったいに、ツナさんが助けにきてくれるって・・・知ってました」

そっと、片方の手をあげて綱吉の頬に触れる。
綱吉は少しだけくすぐったそうにそれを受け入れてくれて、安心させるように微笑んでくれる。
知っていた。


「ハル・・・」

記憶よりも少しだけ低い声が、耳に響く。
頭を撫でていた手が、また優しく頬に触れた。

ハルを安心させるように微笑む笑みは、あの日からずっと変わらなくて。
綱吉の頬から手を離して、そっと頬に触れていた綱吉の手に重ねた。
じわりじわりと、体温が伝わる。

そこに、綱吉がいる。

嬉しさに耐えきれなくて涙を流しながら微笑むハルに答えるように、綱吉はゆっくりと口を開いた。





助けに来たよ



( 私を巣食っていた絶望という闇の中から )