「ハル!極限にすまんっ!!」

そう叫んで盛大に土下座をした了平を、ハルはきょとんと見ることしかできなかった。
というか、そこまで頭が付いていかなかったというべきだろうか。

「え、えと・・・?」
「綱吉が死んだという情報を流すために、ああいうしかなかった・・・本当にすまなかった」

どれほどショックを受けることか分かっていたのに、と苦しそうに眉を顰める了平に、ハルはきゅっと唇を固く結んだ。
「・・・でも、必要なことだったんですよね?」


了平が助けに来てくれた状況は今もはっきりと覚えている。
いくら高校のときに何度もそういう目にあいかけたからといって、その恐怖が無くなるわけではない。
綱吉が助けに来てくれると分かっていても、それでも怖くて仕方がなかった。


「それは・・・」
「これでもツナさんのことは分かってるつもりです・・・それが必要な状況なんですね」

ショックを受けるだろうことが分かっていても言ったのは、外でそう伝えておく必要があったということだ。
これでも、中学2年生の時から5年間ずっと一緒にいたのだから。


「ハル」
ふと、隣に座っていた綱吉が意識を向けさせるように手を握る。

「ツナさん?」
「ちょっと窮屈な想いをさせることになるけど、ハルは何も気にしなくていいからね」

大丈夫だよ、と綱吉が微笑む。
それに若干引っかかるものがあったけれど、その笑顔に返すように笑顔を浮かべた。


「・・・綱吉」
「平気ですよ、了平さん」
少し、深刻そうに尋ねる了平に、綱吉がにっこりと笑みを浮かべた。
その問答に首を傾げるけれど、何でもないよと笑う綱吉にそれ以上は聞けない。



「とりあえず、状況を簡単に説明しておくね」
気にしなくてもいいとは言ったけれど、大体察してくれてるだろうとはいえ状況は把握しておいたほうがいいだろうと、綱吉が口を開く。
それに呼応するように了平が頷いた。

「さっきハルが意識を失ってる間に京子ちゃんには話したんだけど・・・わかってるとは思うけど、日本にイタリアンマフィアが多くやってきている」

それはわかるよね?
と先ほどの光景を思い浮かばせるかのように言う綱吉に、ハルは頷いた。

「・・・最初に倒れていた人は、ボンゴレの人ですか・・・?」
「そう。あ、でも意識を失わされてただけだったから大丈夫だよ」
綱吉の言葉に、ハルはほっと息を吐く。

「事の発端は日本に本部を移転させることからだった。って、まぁ、俺が言ったことなんだけどね」
「日本に、ですか?」
「うん。当然このことは内密に進められてきた・・・そのためにイタリアに目くらましも用意したんだけど・・・・・・どこからか情報が漏れた」
「日本という島国ならばと思い立つマフィアは多い。今現在敵の特定はできないが、綱吉を死んだという情報を流せば敵方の動きから相手が複数かそれとも一つの組織なのか断定できる」
そのために身体が動かせないとはいえ意識のあった敵の前で、態とハルが強くショックを受けることを知りながらそう言ったのだと了平が苦い顔で告げる。

痛ましい顔をする了平に気にしないでと首を振りながら、ふと浮かんだ疑問に首をかしげた。

「あの、どうして日本に本部を移転することになったんですか・・・?」

正式に就任するためにイタリアに向かったし、当然帰ってこれないと綱吉は言っていたのに。
そんなハルの言葉に、了平の顔が少し歪んだ。


「それは・・・」
「正式に十代目になったし、やっぱり日本が俺の故郷だからね・・・」
了平の言葉を遮るように言う綱吉に疑問を感じながら、ハルは頷いた。

そんな疑問よりも、綱吉が日本に居てくれる喜びの方が大きかった。





小さな違和感



( 綻びはまだ見えないほどに小さく小さく )