「みんなっ!」
通された一室で揃う面々に、京子は目の端に涙を浮かべて駆け寄った。
それは言葉を発せられなかったハルも同じで、京子に続くように走り寄る。


「リボーンちゃん・・・ランボちゃん・・・イーピンちゃん、獄寺さん、山本さん、クロームちゃん、雲雀さん、骸さん」
ゆっくりと、一人一人名前を呼んで確かめる。

先ほど、嘘とはいえ綱吉が死んだと聞かされたからこそ、一人一人の無事を確かめたかった。
目の表面に涙を浮かべるハルに、思わず隼人達は苦笑を返した。

「ったく、変わんねぇな、アホ女」
「アホ女じゃないです・・・っ!」

昔なら、「アホ女じゃないですー!」と叫んでいただろうけど、今はその言葉すらも懐かしい。
ランボ達と話をしている京子も同じような様子で、嬉しそうに話をしていた。

「久しぶりなのな、ハル」
「はい、お久しぶりです、山本さん」
ニカっと昔と変わらない笑顔を浮かべる武に、また目の端に涙が浮かぶのを感じる。
さっき泣いたばっかりなのに。


「ちょっと、三浦。紅茶入れてよ」
「は、はひっ!?またハルをパシリにするつもりですか、雲雀さん!」
「くふふ、それでは僕の分もお願いしますね」
「骸さんまでっ!!」

ソファに優雅に座る恭弥と骸の言葉にガーンとショックを受けながら、紅茶を入れるために道具に手を触れる。
高校になってこれが一番の災厄だ、と嘆いていたことをおもいだして、ハルはつい口の端を緩めた。

誰も欠けることなく傍にいて、まるで高校のときみたいな。

そんな夢みたいな時間。




「皆元気で良かったね」
与えられた一室のベットに潜り込んで言った京子の言葉に、ハルは同意するように頷いた。
「はい」
ハルも同じようにベットの中にもぐりこんで、天井を見上げる。

日本に本部を移転して、それでマフィアがいっぱいやってきて・・・。
でも、本当にどうしてツナさんは日本に来たんでしょうか・・・。


「ツナ君も元気そうで良かったね」
京子の声が聞こえて、返事を返そうと思ったハルは思わず言葉に詰まった。

「ハルちゃん?」
「っあ!い、いえ・・・すみません・・・そうですね、本当に良かったです」

誰ひとりとして欠けることなくそこに居て、綱吉が笑ってくれて。
不安なんてあるわけがない。


「でも、ツナさんたち大変そうですね・・・」
「うん・・・やっぱり十代目就任って私たちが想像してたより凄く大変だったんだろうね・・・」

高校3年生になったころから、東洋人だからって馬鹿にされるのを許すなよと言っていたリボーンを思い出す。
でもきっと綱吉なら大丈夫だと思っていた。

「ハル達にできることってあるんでしょうか・・・」
「・・・それは分からないけど、でもだからって何もできないってことはないと思うよ」

ふと隣を見ると強い瞳で見つめてくる京子の姿があった。

きっと同じだ。
京子も皆のために何かしたいと思っているのだと思って、ハルはゆっくりと頷いた。

明日、ツナさんにあいにいこう。
何が出来るのかなんてわからないけど、それでもできる何かを探そう。

・・・でも。
じりじりとこみあげてくるような何かに、ハルは思わず初めて眠りたくないと思った。





夢のような一時



( 儚さに奪われぬよう、どうかどうか今だけは )