まだ少しだけ早い時間。


京子と一緒に食堂に行く予定だったけれど、一人綱吉の部屋に向かった。
出来ることを聞く、という思いもあったけれど、それよりも何だかまだ夢現で本当に綱吉が日本にいるのだと確認したかった。

けれど、扉を開いた瞬間そんな思いは遠く彼方へとすっとんでいた。

「ツナさんっ!?」

ざぁっと足元へと駆けるように血の気が引いていき、頭が真っ白になる。
叫んだ相手の綱吉は苦しむように胸を押さえながらベットから少し離れた場所で蹲っていた。
反射的に綱吉に駆け寄って、そっと背に触れた。

「ツナさん・・・っ!?ツナさん・・・!」
「うっ・・・ぐ・・・は、る・・・」

呼吸は不安定で、時々ひゅっと咳こむように息を吸う。
どうして、なんで、何が起きてるの、いったい、何が・・・。

「あ・・・っ、だ、誰か呼んできま―――」


「呼ぶなっ!!!」


窓を揺らすかのように響いた一喝に、ビクンとハルは怯えるように震えた。
苦しそうに息を吐いて胸を押さえながら、反対の手でハルの腕をまるで縋るように掴む。

「っ・・・うっ、ぐ・・・よぶ、な・・・」
「つな・・・さん・・・」

見上げてくる顔は真っ青で、その目がゆらゆらと今にも意識を失いそうに震えていた。
掴んでくる腕は振りほどいてしまえば離れてしまいそうなほどに弱いのに、その手を振り払うことができなかった。

まるで、体が鉛になったかのように重い。


「で、も・・・」
「だい、じょ・・・うぶだか・・・らっ、ぐ・・・」
「ツナさん!」

ハルから手を離し、ズリズリと這いながらベットに近づく綱吉を支えるように抱きしめた。
すると、ベットの隣の机に置いてあった、まるで病院にあるようなボタンを押す。

抱き締めている綱吉の身体はひどく冷たい。

―――綱吉は、死んだ。

ふいに、了平のあの嘘が頭に浮かびあがって、ハルは綱吉を抱きしめる腕に力を込めた。
胸の中で苦しそうに息を吐く綱吉の声が聞こえて、ハルはその苦しみが減るようにと何度も背中を撫でた。

あれは、嘘だったんです。
だから大丈夫だと何度も頭の中で繰り返す。

苦しそうに胸を押さえる綱吉の呼吸音が聞こえて、辛そうに体を震わせて耐えるのを感じた。
何が起きてるのかが理解できなかった。
どうしてツナさんがこんなにも苦しそうで辛そうなのか。

何のボタンを押したのかはしらないけれど、きっとそれがこの状況を打破するものだと思って、ハルはずっと待ち続けた。


ハルの服を強く握り、胸を押さえ、蹲る綱吉をぎゅっとまた抱き締めた。

途端に、バンっと音がしてハルははっと振り返る。


「シャマル、さん・・・?」
白衣に身を包み気だるげにシャマルが立っていた。

「ランプがついたから急いでやってきてみりゃ・・・ハルちゃんの腕の中たぁ、来るんじゃなかったかなー」
「シャマルさんっ!ツナさんがさっきから苦しそうなんですっ!!」
「ああ、わかってる。大丈夫だ、な?」
近くにやってきたシャマルにぽんと頭を撫でられて、ハルはほっと体の力を抜いた。

それから、シャマルが綱吉をベットへと抱えあげて綱吉が痛みに意識を失うまでじっと見つめながら、漸く振りかえったシャマルに意を決して口を開いた。


「・・・どういう、ことですか?」





たゆたう



( 苦しみの中、辛さの中、貴方を喪うかもしれないという恐怖の中を )