ちらり、とシャマルは汗を浮かべながら眠る綱吉を見て、じっと見つめてくるハルに視線を移してはぁと深くため息を吐いた。 「あー・・・、俺から言っていいもんかね・・・」 「シャマルさんっ!」 叫ぶハルを見て、シャマルは仕方がないといわんばかりにまたため息をついた。 「・・・こいつが日本に来た理由、知ってるか?」 「え?」 突然聞かれて、ハルは昨日の会話を思い出す。 「えっと、ツナさんは自分の故郷だからって言ってましたけど」 「まぁ、それもあながち間違っちゃいないが・・・もう一つ理由がある」 一本指を立てて言うシャマルに、ハルは首をかしげた。 「理由・・・?」 「見てわかったと思うが、今綱吉は重度の神経衰弱に陥ってる」 「しん、けいすいじゃく・・・?」 その言葉にまるで鸚鵡のように言葉を返すことしかできない。 そんなハルに、シャマルは一度頷いて言葉をつづけた。 「イタリアの空気が合わなかったのか、立場がストレスを酷く与えていたのか・・・まぁ、それもいつのことなのかはハッキリとしてないが・・・気づいた時にはもう遅かった」 最初に発見したのはリボーンだったらしい。 いつものようにノックすらすることなく入ると、苦しそうに胸を押さえていた綱吉がいたらしい。 まだ就任したての上に東洋人だと散々なめられていて、それを見返すためにも各々が成果を出そうと必死で。 だから、誰も気付けなかった。 「まともに食事も食えなかった・・・いや、表向きは食ってはいたが、そのあと部屋に戻るとすぐ全部吐いてたみたいだな・・・」 「・・・っ!」 「多分睡眠もまともにとれてなかっただろうな・・・ったく、変なとこで意地張りやがって・・・」 困ったように眉を寄せるシャマルに、ハルはぐっと唇を噛んだ。 「っ・・・だから、日本に?」 「食事は点滴で何を食べたいとも一切言わないうえに、睡眠は強引に薬を使って眠らせる・・・そんな状況でふいに呟いた言葉がそれだった」 ぐっと浮かんできた涙を堪えて、ハルはいまだに目を閉じている綱吉を見つめる。 よく見れば、腕は、手は、骨っぽいというよりも骨が浮かんでいる。 顔色も真っ青を通り越して白く、頬もこけているように感じた。 何を、いったい何を見ていたんだろう・・・。 「最初はリボーンも反対してたんだけどな・・・流石にイタリアンマフィアの最高峰であるボンゴレのドンが日本に行くなんて、あり得ないからな」 「・・・そういう事態じゃ、なくなったんですね・・・?」 出した声は震えていた。 涙をこらえるので精一杯で、震える声を取り繕う余裕なんてなかった。 「胃に穴は開いてるは、食事は取れない、治る傾向なんて一切なし・・・だ」 いくらそういう存在として教育されたとしても、まだ10年もたたないほど前までは至って普通に平凡に暮らしていた人間だということを、誰もが忘れてしまっていた。 こんな未来なんて、一切想定していなかった時があったということを。 「ツナさん・・・」 「・・・日本行きが決定したとき、突然日本のことを話し出したらしい。今までタブーのように言わなかったのに」 「シャマル、さん?」 綱吉の手を握るハルを慰めるように、ポンとシャマルがハルの肩をたたいた。 「・・・ボスを、頼む」 いつものおどけた雰囲気を消し去って、真剣に、それでも優しい瞳で言うシャマルに、ハルは強く頷いた。 日本を求めていた綱吉に、日本にいたハルたちが昔のように接すること。 それが、出来ることなんだと強く理解した。 「・・・はいっ!」 |