「・・・何が、俺には医者の守秘義務がある・・・だよ・・・ヤブ医者」

「ツナさん!」


シャマルが部屋を去ってから少しして、ゆっくりと起き上った綱吉にハルは眼を見開いた。
その顔色はまだ青を通り越した白で、体を支える腕は若干震えていた。

「ツナさん、まだ起きないでください・・・ハルは、」
「ハル・・・ごめん」
「え?」
急いで体を抱きしめるように支えると、逆に抱きしめられてそっと囁かれる。

同じ状況でもっと幸せな場面だったら良かったのに。
全部、全部嘘でみんな笑顔で。


「さっき・・・怒鳴って・・・」
「っ、いいんです、そんなこと!」
思わず綱吉を強く抱きしめる。
腕を回した体は、記憶よりも細く骨が刺さるように感じた。

たったひとりで。
ずっとこの人は、誰にも負担をかけないようにと、たった独りで耐えてきたんだ。

「・・・いいんです・・・そんな、ことっ」
「ハル・・・ごめん・・・」
「謝らないでくださいっ!」

逢いたいなんて思いを隠してずっと手紙を書き続けてきた間、ずっとずっと綱吉は苦しみに耐えてきたのだろうと思うと、涙が浮かぶ。

でも、泣いちゃいけない。
(だめだ、だめだ・・・絶対に、だめ)
泣くのは、ハルじゃないんです。

そう、泣くのはハルじゃない。


「京子ちゃんには、言いませんから・・・」
「・・・ハル・・・」

きっと何も知らなかったのは二人だけ。
何もできないのも、二人だけ。

「うん・・・ごめんね」


昔っから、ツナさんのごめんねが大嫌いだった。

ツナさんが謝る時は本当に悲しそうな顔をしていて、苦しそうで、それ以上もう何も言わせてくれなくて。
たくさんのごめんねを聞くたびに、怯えていた。

いつか。
いつかその言葉が目の前で、自分の想いに対して言われるんじゃないかと、そう思ったから。



「っ・・・そうだ!ツナさん、何か食べたいものはありますか!?」
「へ?」
ぱっと体を離してきょとんと目を見開く綱吉を見つめる。

あのシャマルが託したのだから、精一杯ツナさんを元気にさせたい。
マフィアのことが重圧でこんなことになったというのなら、せめて傍にいる間は忘れられるように。

きっと、それだけが出来ることだから。

「えっ・・・と、じゃあ・・・カレー、カレーがいいな」
「はひ!了解しました!」
任せてください、と握りこぶしを作ってみせる。

京子ちゃんと一緒に作ろう、きっとそれがいい。

だって出来ることは、それだけだから。


出来ることは、きっと。



「ハル」

扉に歩き出したハルの背中に投げかけるように綱吉の声がする。
振りかえったハルに、そっと綱吉が微笑んだ。



「ありがとう」





なんて優しい拒絶



( それならいっそ冷たく切り捨てて、お前に出来ることなんてそれくらいだって )