「・・・うまかったか?カレー」 にっこりと、そうにっこりと、彼が決して穏やかな心では浮かべることのない綺麗な綺麗な笑顔を浮かべてリボーンが言う。 それに、振り返った綱吉の顔が硬直した。 「り、リボーン・・・?」 「俺がこの一生で初めて・・・そう、初めて俺が作ってやった料理は即行で吐いたくせしやがって、京子とハルのカレーはばくばくと食いやがって・・・」 「だ、だって・・・精神とかそれ以前に・・・味が・・・」 「あ?」 「いえなんでも」 ちらりと視線をそらして呟いた言葉にガシャンと音がして、綱吉は反射的に否定した。 そんな綱吉に大きくため息を吐いてから、リボーンはハルと京子の出て行った扉を見る。 それから綱吉を見て、つい「吐き気は?」と聞きそうになった口を閉じる。 顔色は食前よりも格段とよくなっているし、あえて意識させることでもないだろう。 そう結論付けてから、リボーンは別のことで重くため息を吐いた。 「ハルにバレただろう」 「う・・・」 二人とも料理上手だよねーとぽやぽやとした表情で語っていた綱吉がぴたりと止まった。 あの表情というか動作というか、それで何となく知っているのだとは気づいていたけれど・・・。 「その、くらくらしてやばいなーって思って、立ってられなくなってうずくまった時に丁度ハルが来て・・・その、シャマルが・・・」 「シャマルのせいにしてんじゃねぇぞ」 「・・・はい」 むーっと膨れる綱吉を見て、少しだけ苦笑する。 思わず、緩んでしまいそうになった気を張りなおして、机の上の資料を広げた。 「何度もあらいなおしてみたが、やっぱり該当者はいねぇな」 「・・・俺だって、そう思うよ」 ここに、該当者はいない。 あえて主語を伏せる会話を続けながら、綱吉は込み上げてくる何かに、ぎゅっと堅く唇を閉じた。 じわりと広がる痛みは重く、ふと競り上がった吐き気に口を開きかけた瞬間、鼻を通る先ほどのカレーの匂いに吐き気が静かにおさまっていった。 京子ちゃん、ハル。 ダメダメで弱くて、そんな俺が初めて護らなくちゃ!って思った二人。 怖くて震えて、だけど二人が助かるならって、ナイフだって怖くなくて。 「でも、誰かいるはずなんだ。本部の日本への移転を敵に漏らした奴が・・・」 赤を含んだ黒に染まった小さな小さなチップを取りだして、ぎゅっと握りしめた。 微かに漂う匂いは、酷く悲しみを誘う。 「・・・絶対に、許さない」 低くつぶやいた言葉に、リボーンは深く眉間に皺を刻んだ。 この抗争は、何かがおかしい。 その事実を綱吉に伝えるべきか悩んで、結局止めた。 実のところ、リボーンのカンだけで確証も証拠もありはしない。 それに。 「ツナ、もう寝とけ」 小さなチップを握っている手が真っ白くなっていることに気づいて、そっとその手に触れてチップを別の場所に置いた。 「あ・・・うん」 顔も大分と青くなっている。 ったく、多分歴代で一番世話が焼けるボスだな、と苦笑してから、リボーンは綱吉に向かって口を開いた。 「京子とハルが、明日はオムライスを作ってくれるらしいぞ?」 「本当?楽しみだな」 まだ顔は青いけれど嬉しそうに笑う綱吉を見て、リボーンはこっそりとため息を吐いた。 けれど、同時に不安が襲う。 事件が解決しない間は、ハルや京子ですら一時しのぎの癒しにしかならないだろう。 早く。 早く、解決しねぇとな。 骨の浮いた綱吉の手を見て、リボーンはまた眉間に皺を刻んだ。 |