「おい、今いいか?」 ひょい、とノックのあとに顔をのぞかせた隼人に、京子とハルはきょとんと首を傾げた。 「はひ?どうかしたんですか、獄寺さん」 「何かあったの?」 「・・・いや」 不思議そうな顔をして尋ねるハルと京子に、隼人は違うと首を振ってから困ったように唸った。 そんな隼人の姿に顔見合せて首をかしげて、じっと隼人を見つめた。 2人の視線をうけて、隼人は言いにくそうに視線を彷徨わせてから口を開いた。 「・・・その」 「うん」 戸惑う隼人を促すように京子が頷くと、隼人は決心したように2人を見る。 「花を、選んでくれ」 「花、ですか?別に構いませんけど・・・」 でも、どうして、という言葉を濁したハルに、隼人は少しだけ悼むように目を閉じた。 「悪いな」 「わぁっ!凄いです!」 「ほんと、綺麗!」 ライトとはいえ、明るい日差しに似た光に照らされた庭園に咲き誇る花に、ハルと京子は顔を輝かせた。 限られた地下の土地とはいえ、明るく小さな川も流れたその庭園はまるで別の空間のようだった。 「あ、ベンチがあります!」 「こっちには小さな池があるよ!」 きゃあきゃあと楽しそうにはしゃぐ2人を見ながら、隼人は苦笑を浮かべた。 「ここは十代目が自ら設計なされた屋内庭園だ。指紋認証はもう登録してあるから、いつでも好きに入れ」 と、一応声をかけておくけれど、楽しそうにはしゃいでいる二人に届いているかは定かではない。 屋内庭園の中で木花に触れ笑い合う二人の光景は、ひどく穏やかで当たり前のように見えた。 けれど、その向こうでドーム型をした窓ガラスのような壁が見えて、思わず苦笑する。 まるで、鳥かごのような部屋だ。 ・・・鳥かごに、閉じ込めるしかできなくさせたのは、俺らかもしれねぇけどな。 そう思考が落ちかけた瞬間、ポンと軽くハルに肩を叩かれて振り返った。 「それで、どんな花を選べばいいんですか?」 「ん・・・ああ。一応弔花を」 「弔花?」 「いや、こだわる必要はねぇけどな・・・墓前に、そえるものを」 そう言うと、ダメです!とハルが叫んだ。 「ダメですよ!そういうのは獄寺さんが選ばないと意味がありませんよ!」 「は?・・・ちょ、おいっ!」 「ほら、早く早く!」 京子にも急きたてられ、ぐいぐいと押されたまま花畑に突っ込むように歩かされる。 ・・・くそっ、クロームがいないとはいえこいつらに頼むんじゃなかったっ! と内心後悔しながらも、どこか浮かんでくる笑みを堪えた。 「わかったから、あんまり押すんじゃねぇよ」 青を選ぼう。 色とりどりの花の中で、ここからは見えることのない青空のような、青を。 そう思って、今度は自分の意思で花畑に向かって歩き出した。 |