「・・・綺麗」 先ほどの庭園よりもっと奥、ひっそりとあった墓の周りは一層神聖さを感じさせるような美しさに溢れた場所で、思わず京子が呟いた。 一つの、小さなお墓。 まるで人目を避けるように、それでいて誰かに護られているようにそこにある西洋風のお墓の前に、隼人がそっと青ばかりを散りばめた花束を置いた。 一人にさせるか迷ったけれど、墓より少し前で立ち止まっていた二人を隼人が手でそっと呼び寄せる。 周りに誰もいないのに、何故か音を立ててはいけない気がしてゆっくりと近寄っていく。 「(Lies Here・・・Kazuki・Oakwood・Niizaki・・・・・・新崎、一樹・・・?)」 刻まれた文字は、共にいたときには聞いたことのない名前だ。 そう思いながらも、どこか手のひらを合わせるのは違う気がして、隼人に倣うように瞳を閉じた。 「・・・十代目を、」 ポツリと、小さな声で呟いた隼人に思わず顔を上げた。 隼人はただ墓に刻まれた文字を一つひとつ目に焼き付けるように見つめていた。 「ボンゴレの崩壊に動き出したマフィアがいることがはっきりとわかったのは、こいつの死が最初だった」 どこか独り言のように呟く隼人の言葉を、二人は静かに聞いていた。 ぐっと眉間に皺を寄せて拳を握る隼人は、どこかやりきれない怒りを抱えているようで。 人工的に送り込まれる風が、隼人の髪を揺らした。 「酷い、有様で・・・それでも遺体だけでも一緒に日本に連れてきた・・・」 瞳を閉じて俯いた隼人に、ハルと京子は何も言えずにただ黙っていた。 ここで何かを言えば、それが隼人を尚更傷つけるような気がして。 長く、長く沈黙が横たわった後、パっと隼人が顔を上げた。 「悪ぃな、しんみりさせて。・・・それと、巻き込んで」 そう困ったような顔で苦々しげに言う隼人に、ハルと京子は思わず顔を見合せて堪え切れない笑みを漏らした。 「なんだか、獄寺さんがそんなに殊勝だと、調子狂いそうです」 「うんうん。なんていうか、変だよね」 くすくすと笑い合いながら頷きあう二人に、隼人の米神がピクリと動いた。 「・・・何だと、コラ・・・っ」 人が下手に出りゃつけあがりやがって・・・!と拳を振るわせる隼人に、二人揃ってまた笑う。 「だって忘れてるんだもん」 「そうですよ、高校の時に言ったじゃないですか」 酷いですよ、ねーと2人で小首を傾げながら笑う二人に、隼人は訝しげに眉を顰めた。 「どんなことに巻き込んでくれてもいいけど、巻き込んでごめんって謝るのは絶対にしちゃだめ」 「巻き込まれたのは、傍にいたいっていうハル達の意志で、本当に巻き込まれたくなかったらすぐしっぽ巻いて逃げちゃうんです・・・って」 そういいましたよね?と確認するように笑うハル達に、隼人はくっと喉を鳴らした。 それを言われたときの綱吉の顔は、それはそれは面白いほどに困った顔をしていた。 「・・・バーカ、しっぽ巻いて逃げれるような状況かよ」 「はひ!それは例えですってば!しっぽ巻いて逃げることなんてないから、どんな状況に巻き込まれてもいいんです!」 べーっと舌を見せて反撃するハルに顔が緩むのを感じながら、ふと後ろの墓を見る。 穏健派で静寂を好む奴だったけれど、これくらいなら、きっとたまには騒がしくてもかまわないだろ。 人工的に送り込まれる風に揺れる青い花を見ながら、そう思う。 「おら、そろそろ散水の時間だから出るぞ」 「はーい」 墓に背を向けて、振り返ることなく歩き出した。 |