「・・・はひー、皆さん口堅すぎですよぉ・・・」 そうぐったりと机に伏せて呟いたハルに、目の前に座っていたセオは困ったように笑うしかできなかった。 「口の軽いマフィアはまずここに来てないと思いますが・・・」 「そんなことわかってます!というか、その口調やめてくださいって言ってるじゃないですか、同じ年なのに!」 もう!とハルが怒るのにセオはまた困った顔をするしかできなかった。 セオ・マルフィートは、つい先日ハルが日本に移転した本部に来るまでハルの護衛をしていたらしい青年だ。 ちなみに、なぜ、らしいのかというと、ハルはその姿を一度も見たことがないからである。 ここにいる人間はみんな日本に縁のある人のみらしく、セオも半分日本人の母親の血が流れていて、くっきりとした外国人らしい顔なのにどこか日本人らしさがちらほらと見えていた。 ちょっとだけ垂れ目な目はマフィアとは結びつかないほどに優しげな顔をしていた。 「・・・わかりました、から・・・そんなにじっと見ないでくれ・・・」 降参、と言わんばかりに手を上げて本来の口調に戻るセオに、ハルは満足そうに笑った。 そんなハルの笑顔に、またセオの苦笑が深くなる。 「ハルはですね、別に難しいこと聞いてるわけじゃないんですよ?」 「ボンゴレを狙う組織についてとか、どうして情報が漏洩したのかとかを聞いてくるのはかなり難しいと思うけど」 「・・・そんなことないですよ」 ちらりと目をそらしたハルに、思わず笑顔が浮かんだ。 何と言うか、嘘を隠せない人間だなぁと思う。 「ボスのために何かしたいのはわかるけど、これに関わっても正直ハルができることはないぜ?」 「それは100%ですか?」 問われた問いに、思わず言葉が止まった。 「出来ない可能性が99.9999999999999%だとしても、わずか、0.0000000000001%でも可能性があるなら、それに賭けない理由はありません」 清々しいほどに言い切るハルの脳裏に、蹲る綱吉の姿が浮かんだ。 わずかに、わずかにでもあるのならば。 「それに、ハルは別にツナさんのために何かしたいなんてそんな高尚な理由なんて持ってませんもん」 いいですか? とハルがにたりと笑って、得意げに言い放つ。 「ハルはハルのしたいことしかしてません」 それが、綱吉のためにならないことにならないだけだ、とハルが自信満々に笑った。 「・・・そーですか」 そんなハルに、苦笑を浮かべるしかできなかった。 「あ、あと最後にもう一つ聞きたいことがあるんです」 「?」 きょとんと首をかしげたセオに若干躊躇ってから、それから恐る恐る口を開いた。 「一樹・オークウッド・新崎さんについて」 名前を口にした瞬間、すぅっと静かに凍りついていく空気に思わず身体が震えた。 最初で事が明るみに出たきっかけの最初の犠牲者。 日本への本部移転計画の人員として組み込まれていて、そうして日本に移る前に“犠牲者”として死んでしまった人。 その名前を聞いた瞬間に、セオが唇を噛んで沸き上がる何かを押さえるように拳を強く握った。 「一樹、について・・・は・・・」 ゆるりと、片方の手がゆっくりと開かれて、何かを確かめるようにそっと耳の下あたりのわずかに不自然に盛り上がった場所に手を触れた。 ほんの小さな、意識しなければ決して気付かないような、そんな場所に手を触れながら目を閉じて俯く。 「何も、言えない・・・誰に聞いても・・・同じだ」 確かめるように、何度も何度もそれに触れて、拳を強く握る。 プツリ、と音がして拳から血が流れても気にすることなく、ただ確かめるようにそこに触れていた。 「・・・悪い。俺、もう仕事に戻る」 「はい・・・ありがとうございました」 一樹・オークウッド・新崎。 二三度頭の中で復唱して、さっきのセオの動作を思い出す。 この事件は、ハルが思っている以上に複雑なのかもしれない。 「でも・・・・・・もう、後悔したくないんです・・・」 ぎゅっと目を閉じて、それから意を決したように歩きだした。 |